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帰ってきたムッソリーニの寿司と忍者のネタバレレビュー・内容・結末

帰ってきたムッソリーニ(2018年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

本作は『帰ってきたヒトラー』の2番煎じどころかキャラクターを差し替えた移植のようなもので、殆ど同じである。かつて出たゲーム、『ワンダーボーイ』と『高橋名人の冒険島』、『夢工場ドキドキパニック』と『スーパーマリオUSA』のような関係性に近い。詰まるところリメイクである。
ストーリー展開、手法、どれをとっても本当にそのままで、違うのはキャラクターと舞台くらいなものだ。本当にキャラクターを差し替えた移植だ。
しかし私は、その瑣末な違いにヒトラーとムッソリーニ、ドイツとイタリアの違いが出るのだろうと思い、今回視聴するに至った。


まず言うまでもないが、現代ドイツとイタリアの抱えている問題が異なる。
本作では、移民問題が大きく取り上げられていた。主人公(しがないドキュメンタリー作家)が始め撮影しているのも、これについてである。あと少し、同性愛についても。しかし、イタリアといえばマフィア問題だろうに、不自然な程これについての言及はない。私の知らぬ間にイタリアマフィアは解散したのか?

そして、細かいところがドイツからイタリア仕様に変わっている。フューラーからドゥーチェに変えるにあたり辻褄が合うようにされている。
クララ・ペタッチ…エチオピア…トルロニア荘…ロレート広場…黒シャツ隊…ローマ進軍…人種法…魔法の門…
でも、多少だ。ストーリーの枠を出るような調整はされていない。お陰でムッソリーニがやるには違和感のある描写も少なくない。
例えば、純血にこだわるところとか。ヒトラーはそうだったが、ムッソリーニは違う。ドイツとイタリアという国の違いがそうさせたのだが、ムッソリーニはヒトラーと異なり人種主義者ではなかった。
ヒトラーはドイツ人(アーリア人)にこだわり、ドイツ人の住む地域はドイツ国にあるべきだとした。イタリアは何十年か前に長靴の形でまとまっただけの脆弱な国家で、イタリア人という意識さえも希薄だった。だからムッソリーニも人種にこだわったりなんかしていない。後年こそドイツの傀儡に堕ち…ドイツの影響が強まって人種法を制定するまでに至ったが、ムッソリーニ本人としては反ユダヤに否定的だった。彼にとっては、ユダヤ人だろうがイタリアにいれば皆イタリア人なのだ。大事なのは、彼らにイタリア人であるという帰属意識を芽生えさせることである。
しかし政策としてユダヤ人を迫害したのは事実なので、お婆ちゃんのエピソードは尤もであるのだが、どうしてもその後の発言は気になってしまう。実に彼らしくない。
ヒトラーの為した軽率な行動をムッソリーニにもさせているところも気になる。犬の射殺とか。ヒトラーは激昂しやすい性格してるんでまだ分かるんだけども、ムッソリーニにはもう少し冷静であってもらいたかった……こりゃ俺の願望か?
詰まるところ、別人物の行動を丸々なぞらせるのは無理がある。最初から無茶だったんだ、この映画の企画は。批判的にもなろうよ。最後の展開変えたから風刺映画にも満たないし。どこを見れば良いんだ、この映画は。コメディとしても……
……でも、主人公に女のアドバイスをするシーンとかは、ドゥーチェの方が様になってたから良いか。

最後に、終始纏う雰囲気の違い。
これは決して些細ではない。
現代政治への辛辣さは、向こうに軍配が上がる。あちらはコメディ映画に見せかけた風刺映画だからだ。本作は本家と結末の描き方が大きく異なり、衆愚政治への批判の痛烈さがなくなった。お陰でこちらは風刺成分が弱くなり、結果何映画なのかよく分からなくなった。
そして、あちらにあった"この人ヤバい"というような"空気の凍り付き様"をあまり感じられない。基本的に、終始陽気だ。これはムッソリーニがヒトラーほど強くタブー視されていないというのが大きいだろうが、イタリア人の陽気さも関係しているかもしれない。後はやっぱり、ムッソリーニがヒトラーほど人格が破綻していないのも……。
まあ、向こうにはその"タブー"の裏返しとも取れるシュールさがあって、それがコメディにかなり貢献していたのも事実だ。タブーが強ければ強いほど、笑いも比例する。こちらと言えば、ムッソリーニがちょっと陽気なくらいで、笑いたらしめる不謹慎さがやっぱり弱いと言わざるを得ない。ヒトラーとこの土俵で並んで競うのは無茶である。敗戦国の独裁者だから、ここに立たされざるを得ないのは分かるが……確かに、他の使い道はあまり思いつかないかな。ムッソリーニの映画の少なさが既にそれを物語っている。帰ってきたヒトラーの見所の一つとしてパロディがあるが、悲しいかな、こちらにはそれすらも……


これまでは本家との違いを述べたが、ここからは私の願望を。
本作は帰ってきたヒトラーのリメイクでなく、オマージュであってほしかった。要するに、現代に帰ってきたヒトラーはああしたが、ムッソリーニならどうするか?という、現代転生の設定だけを踏襲したオリジナルの展開を見たかった。
ヒトラーは演説で人々を洗脳…魅了したが、ムッソリーニは演説よりもその人柄や能力で支持を集めたように思う。本作でもメディアに出て人々の支持を集めていくが、ストーリーの都合がムッソリーニよりもヒトラーらしい気がしたので、より彼らしい手法に近づけて欲しいものだ。やはりライターか?いや、映画映えしなそうなのでやめておくか。本でやろう、本で。
ヒトラーの頑固さ、倫理観のなさ、空気の読めなさ、ヒステリーとコンプレックスで歪んだ人格はバルカンのような火薬庫めいた危うさを常に孕んでおり、帰ってきたヒトラーは見ているこちらもヒヤヒヤしたものだが、ムッソリーニはタレント業もヒトラーよりずっと上手くこなせそうで、本当に見たくなった。鋭い洞察力、キレたコメント、それに愛嬌のある笑顔で男子からも婦女子からも結構人気が出そうなものだ。見たいなあ……


全然関係のない話、ムッソリーニは無神論者ではなかったか?本作では随分と、カトリック的な考え方をしていたように見受けられたが。私が2017年に蘇ったのは神の思し召しだ……みたいな。そんなキャラだったっけ。

あとは見た目だな。演者がハンサムすぎる。あれよりも、少なくとも1.2倍は欲しいかな…頭の大きさが。顎と唇、そこはかとない太々しさも足りない。あれでは単なるハンサムな禿げた将校の爺さんである。七三チョビ髭だけである程度似てしまうヒトラーと異なり、ムッソリーニは似せるのが難しそうだ。


思い募って色々と文句を垂れてしまったが、ムッソリーニの映画が作られただけでも……
しかし本家に比べて、コメディも風刺も弱くなってる点は否めない。ただ、テンポが良く時間も短い上、本家のような差と味の悪さがないため気楽に見られる作品となっている。まとめるとこんな感じか。
気楽に現代転生を見たいなら、こちらだ。
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