カラン

ザ・メッセージのカランのレビュー・感想・評価

ザ・メッセージ(1976年製作の映画)
4.5
宗教の歴史についてなんて、長くて、寝落ちするんじゃないかと思ってましたが、アニハカランヤ。エキゾチックな気持ちになりました。身近には見当たらないものを一つ一つちゃんと見て回る旅をしている気分ですね。イスラムのことって、日本にいると、過激派のニュースとかアメリカとの交戦の報道とかしか、入ってこなかったりしますよね。例えばすぐに思い出すのは『パトリオット・デイ』の鍋に釘爆弾を仕込んだ兄弟の話しだったりしますよね。そういう人たちがいるのは事実なんでしょうけど、フェアではないですよね、そういう映画だけじゃ。

この映画ですが、砂漠にまず驚きます。太鼓とあの独特の笛にも驚きます。音を少し大きめにして観ると良いです。アラビアの音をたくさん聴くのはなかなかない経験ですよね。フェリーニの『甘い生活』の冒頭のヘリコプターで空を飛んでいる巨大なキリストとか、リストランテでのあの風変わりなダンスによって、新しいものへの驚愕が映し出されていましたが、それに近い驚きを覚えました。知らない世界ですよ、この映画の世界は。で、この映画は長いのですが、結構飽きないです。それは、戦争が断続的に繰り返されるのも、関係しているかもしれません。ムハンマド(映画の字幕ではトルコ語に由来するマホメットとなっていますが、アラビア語に近いのはムハンマドのようです。またこの映画は実は、祈りの歌?を除けば、全編英語です。英語で発表する目的は分かりますが、ちょっと興趣を削がれるところ)は、ウィキペディアでは職業の欄に「開祖、軍事指導者、政治家」となってますが、ここも私たち日本人には意外なところですよね。砂漠での戦争ですので、水場を計算した戦い方も映画では描かれています。たぶん相当な戦術家だったのでしょう。

また映画の冒頭で説明が入るのですが、偶像崇拝の禁止という教義に敬意を払ってムハンマドの直接的な描出はされません。顔も声も出てこないのです。これもユニークさの一因です。



映画の冒頭をなぞっておきます。

デビッド・リーンのかの大作『アラビアのロレンス』は第一次世界大戦の頃の物語でした。それを遡ること、1300年ほど前のこと。本作『ザメッセージ』のナレーションによれば、キリストの死後600年が経とうという頃のこと、欧州は暗黒の時代にあり乱れきっていた。ムハンマドの生誕の地、メッカは、商人の街であり、商人たちは特権を乱用し、街の神殿には360もの様々な神々の偶像が奉納されており、カアバの神殿は古の威厳をなくしていた。神殿に奉納された種々の神々に祈りを捧げるために巡礼者がメッカを訪れ、そうした人々と交易することで、メッカは栄えていたので、神は唯一であり、偶像崇拝を禁じるムハンマドの教えは、町中から強い反発を招くことになった・・・



そうそう、言い忘れてました。

この作品は教義に則っていることに関してイスラームの宗教学者のお墨付きだと最初から断り書きが入るとは言え、映画です。パッケージに写っている人物は『アラビアのロレンス』にも出てましたが、『炎の人ゴッホ』のゴーギャン役でアカデミー助演男優賞を受賞したり、フェリーニの『道』のザンパノを演じた故アンソニー・クイン氏ですからね。彼ははまり役ですが、アラブ人ではありません。これは映画なのです。プロバガンダとまで言う必要があるのかは不詳です。うん、たぶん、それはうがった見方でしょう。しかし映画の最後で、巡礼と礼拝の場面が映され、これは現代の実際の映像がおそらく使われています。これは圧巻です。人が生み出すパワーに驚きます。
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