MasaichiYaguchi

淪落の人/みじめな人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
4.3
不慮の事故で半身不随となって車椅子生活を送る中年男性と住み込みの介護人の物語というと、昨年末にハリウッドリメイク版も公開された「最強のふたり」を彷彿させる。
だが、「インファナル・アフェア」などで知られる香港を代表するスター俳優の一人であるアンソニー・ウォン主演のこの香港映画では、車椅子生活の主人公リョン・チョンウィンは裕福ではなく、妻子と別れ、実の妹とも疎遠、孤独の中で慎ましく生きている。
彼が生きている中での楽しみは、嘗ての仕事仲間で友人のファイとの交流と、遠く離れて住む息子の成長だけだ。
そんな彼のもとに、介護を主とした新しい家政婦として若いフィリピン女性エブリン・サントスがやって来る。
物語は、この二人の出会いから本格的に動き出す。
邦題の「淪落の人」とは落ちぶれた人、失意のどん底にある人を意味する。
主人公のリョン・チョンウィンは、人の世話にならなければ生きられない厄介者としての自覚から正に失意のどん底にあるのだが、彼の新任家政婦のエブリンも、失意を抱えて故国から逃れるようにやって来たことがストーリーの進展と共に分かってくる。
初めは言葉も通じない、国籍や性別、年代も違うという全てが噛み合わずギクシャクした「淪落」の二人だったが、片言の英語で会話する内に心が通じ合っていく。
お互い「淪落」した身であっても、両者共に誠実で優しいのだと思う。
特にアンソニー・ウォン演じるチョンウィンは、決して裕福ではないのに身近で困っている人を放っておけない人なのだと思う。
だから、全てを諦めて現状に埋もれそうなエブリンに無償の愛で手を差し伸べていく。
そしてまた彼女も彼の優しさや恩に報いる為、出来るだけのことをやっていく。
この「淪落の人」同士の優しさや愛のエールの交換を見ていて終盤では感情が抑えられず、人目を憚らず何度も嗚咽してしまった。
本作では「福」と「夢」の字が印象的に登場するが、どんなに苦しく辛い状況でも、これら二つを諦めずに誠実に追い求めれば、手を差し伸べて導いてくれる人がいることを、詩情溢れる香港の四季を背景に心揺さぶるストーリーで本作は描きます。