DaiOnojima

TENET テネットのDaiOnojimaのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
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 T・ジョイPRINCE品川でiMAX版を鑑賞。

 あえて予備知識を全く入れず見たんですが、評判通り、話はよくわからない。でも全然退屈せず最後まで見られた。

 「時間」の概念を巡る最新の物理学の知識がある人でも、1,2回見たぐらいじゃ到底理解できないというややこしいお話なわけですが、でも退屈しないのは、やはりiMAXの映像の凄まじさと音楽・音響の強烈さゆえでしょう。割合前の方で見たので、とにかくiMAXの巨大画面が視界からはみ出すぐらいの勢いでガンガン迫ってきて、アクションや戦闘シーンのド迫力に圧倒される。CGほとんどなしでホンモノの航空機を実際に破壊して見せたりする、その映像の力は凄まじい。そしてローをガンガン効かせた爆音で鳴るインダストリアル風の音楽(音楽担当のルドウィグ・ゴランソンは、チャイルディッシュ・ガンビーノやチャンス・ザ・ラッパーとやっているトラックメイカーでもある)と、ドカンドカンと響く音響効果に揺さぶられ、おまけに時間の順行がどうの逆行がどうのとあれこれ細かい謎解きや分析にふける余裕などまったく与えず凄まじいスピードで淀みなく話が進行する演出で、あれよあれよという間にクライマックスの戦闘シーンまで持っていかれる。親切な監督なら物語を理解する鍵を説明するシーンやセリフを加えるだろうが、そんなことは全く忖度しない。その代わり映像、音楽・音響、演出すべてで、力業でもって観客を引っ張っていく。だからこの映画を家庭のテレビやパソコンのしょぼい画面・音響で見ても真価は全然伝わらないはず。実際、家庭であんな大画面・大音量で見ることなどまったく現実的ではない。大がかりなホームシアターで見ても無理でしょうね。そんなわけで劇場で見るべき映画だし、見るならiMAXがおすすめ。

 その手法の面白さや斬新さに言及する声は多いが、でもこの映画のテーマやメッセージに言及する人が少ないのは、前述の通り映画自体がそんなことに考えを及ばせる余裕を与えないということもあるし、そもそもそんなものなどないからだ、という考え方もできる。時間の概念を巡るお話だが、そこを哲学的・文学的に深く思索するようなお話では全然ない。「インターステラー」や「インセプション」にはそんなところがあったが、今作にはない。何度か見て物語の全貌が掴めれば、そういうことを考察する余裕も出てくるかもしれないが、少なくとも一回見ただけじゃ、ただその情報量の多さと演出の強烈さに圧倒されるだけで終わる。主人公(デンゼル・ワシントンの息子)を始め登場人物はなんらかの行動原理に基づいて動いているが、その行動原理が容易に理解できないので、誰にも感情移入できないまま最後まで来てしまう。その力業の強引さは好き嫌いがあると思う。でもとにかく類を見ない映像表現を駆使しためちゃくちゃ刺激的で面白い作品であることは間違いない。

 私は鑑賞後、ネットでいろんな記事を読んでようやくお話の概要や概念を少し(全部、ではない)理解したので、もう一度見て答え合わせをしようと思うわけですが、おそらく監督は観客がそういう行動を取ることを最初から想定している。あれこれ劇中で説明しないでも、外部からの考察や分析、二次情報や三次情報で補填されるとわかっている。そこは監督の思惑にのせられているようでちょっと悔しいわけですが、でもこんなに難解な映画なのに無類のエンタテインメントとしても楽しめる作品を創ったクリストファー・ノーランの力量には脱帽のほかない。

 デンゼル・ワシントンの息子は、俳優としてはまだまだオヤジに及ばない感じですが、キャット役のエリザベス・デビッキがすこぶるつきのいい女で、目の保養になりました。身長191センチってすごいな。ロバート・パティンソンが演じたニールは、ターミネイターのカイル・リースみたいな儲け役。((2020/9/30記)

(2021/1/22追記)
 その後UHD-Blu-Rayを購入し、自宅の55インチ有機ELテレビとサラウンド・システムで再度鑑賞。画質の良さは驚異的で、これまで見た映画ソフトの中でも1,2を争うと思う。
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