このレビューはネタバレを含みます
未来の科学者が発明した《逆行装置》を巡る順行サイドと逆行サイド(ブローカー)との四次元的な抗争・10分間の挟撃作戦に至るまでを描く。
今作の肝である《逆行》の見せ方が非常に上手い。冒頭見せられた時には《因果の逆転》を引き起こす特殊能力とか秘密道具の類かと思っていたのだが、そういう見方をしてしまった為にどんどん訳が分からなくなった。
実はしっかりルールや制約があって、仕組み自体は至ってシンプル。なのにいざ逆行が始まると物語全体に及ぼす影響が本当に難解であるから面白い。
《逆行してたからこうなったのか》《逆光からここで順行に戻ったのか》《あーこれは逆行じゃなかったのね》という流れ自体は最終的に理解出来るし、そんなに複雑じゃない。…はず。
ただ、逆行すると《なんでこうなるのか》逆行しているのに《なんでこんな事ができるのか》という【なぜ・どうして】の理解が追いつかない。
逆行についてはふんわりとしか理解できないものの、目の前に映る映像は衝撃的だった!
逆行の説明がある程度なされた所で、メインの登場人物がそれぞれ時間を逆行したり順行に戻ったりするため、逆行と順行が同じ時間軸に存在してアクションを繰り広げる。
巻き戻しと再生がごちゃ混ぜになった様な映像は本当に凄い。オスロ空港、テナン・ハイウェイ、スタルスク12での10分間ミッションの映像は強烈なインパクト。IMAXとの相乗効果で今までにない映像体験であったことは間違いない。(主人公が《名無し》である設定も地味に効いている)
今まで体感したことのない《逆行世界》では《マスクをしないと窒息死してしまう》という設定が、未知のウィルスであるCOVID-19との共存を強いられる現代の様子とリンクしているのも面白い。
人間ドラマも非常に濃厚。
●名前がないのに圧倒的存在感の主人公。
●Neil(Robert Pattinson)の友情と献身。
●残虐なSator(Kenneth Branagh)の弱さ。
中でもKatを演じたElizabeth Debickiの演技が抜群によかった。
直接登場はしないが、逆行装置を発明した未来の科学者は、兵器として利用される事を恐れて発明品を隠匿した。どん詰まりの未来で人類の希望とも言うべき装置を破棄した科学者の気持ちを想うと切なくなる。
順行サイドの組織を立ち上げたのは誰なのか。羨望の眼差しを向けていた自由な女性は誰なのか。10分間の間に順行・逆行・遠隔地で命を救ってくれたのは誰なのか。
初見でも十分鳥肌モノのシーンの連続だが、ルールを理解した上で再度鑑賞すると、間違いなくまた違う発見を楽しめる。何回でも観たい!