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ひとよのevergla00のネタバレレビュー・内容・結末

ひとよ(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

【暴走タクシー】

母が守ろうとしたものは、夢や目標に向かって邁進する、子供達の健康的な未来。だがその母の正義を、法律も世間も守ってはくれなかった…。
事件から15年後、約束通り帰って来た母に戸惑う3人の子供達。

子供達がその年月をどのような思いで生きてきたかは断片的に伝わってくるものの、母親については深く語られませんでした。私には彼女の表情が、みんな何がそんなに辛いの?ととぼけて見えるほどで、しれっと馴染んでいる姿にも違和感がありました。世間がどう非難しようと、子供達が胸を張って生きていくには、自分が後悔してはならない、決してブレてはならないのだという手本を見せていたのかなと後々感じましたが、子供達の将来を冷静に案じたのなら、故意の殺人という最悪の手段は取れない気もします。親の心子知らずと言いたいようですが、どうしたって親の罪な生き様が子供にとって受難となることくらい想像がつく筈です。

父親の暴力に怯えて生きていくのと、殺人犯の子供として世間から後ろ指を指されて生きていくのとでは、どちらが辛いのか。

度胸でもないし強さでもないなら一体何だと言いたいのか。あの大雨の晩の、追い詰められた母親にしか出来ない覚悟なのか。

母にとっては、子供達を暴力から守れた誇り高い夜。
子供達にとっては、別の不自由な人生が始まった夜。

次男の行動は、母の犯行を非難しつつも、どこか内心感謝している彼自身を罰しているのかなと思いました。

一人息子を持つ従業員の堂下は、一回?遊んだくらいで父親ヅラされても…という感じで、全くもって描き足らなかったですが、最後の「暴走する親」のタクシーと、「夢中で追いかけ親を止める子供」のタクシーが「衝突」するクライマックスは涙が出ました。事件の夜も家族を変えたけれど、この「一夜」も家族を再び束ねた大事な夜となりましたね。
タクシーという、乗客の行き先へ向かうべき乗り物が、運転手の意思で走るという設定も興味深いです。結局人生は自分のハンドル次第でしょうか。

タクシー会社の人間模様で、この2人がくっつく?!みたいな驚きがありますが、そんなことに時間を割くくらいなら、15年間の母と子供らの苦労を、台詞の説明ではなく映像で観たかったです。ユーモア要素もありますが、あまりにシリアスな題材なので笑う気にもなれず。稲村家を徹底して描き切ってくれたら良かったのにと思いましたが、熱演には胸を打たれました。
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