立出

9人の翻訳家 囚われたベストセラーの立出のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます


◆一言で
 経済第一の社会に振り回される天才と、その天才に振り回される凡人達の映画

◆キャラクター
・エレーヌ(デンマーク語担当)
…若いころは小説家になる事を夢見ていたものの才能のなさに挫折、結婚し子供まで生まれ、作家より安定した仕事(翻訳)を取ってしまったことを後悔している女性。クリエイター業に従事しててかつ長年くすぶってる人は感情移入をせざるを得ないキャラ。あまりにも境遇が似てて、エリックが作品燃やした時にはマジでキレそうになった。自分の作品を燃やされ、才能を否定され、自身の家族への薄情さを自覚して…閉鎖された空間の中で彼女は命を絶ってしまった。あまりにも哀しい。それに対してアレックスが「彼女はいずれ自殺した」と言うんだけど、動揺していたのもあり100%本心ではなかったと思うけど、ブチギレそうになったね…。同じく家族をもつイングリッドが異論を唱えててくれててちょっと救われた。アレックスへの評価があそこで地に落ちた。
 アレックスが巻き込んでしまったマジで悔いてるのは、自身の作品のファンであり美しいカテリーナってところがリアルでいいなーと思う。

・エリック(社長)
…文学に見切りをつけた男。自分とエレーヌを重ねて作品を燃やしたのはマジで許さん。ジョルジュの口ぶり的に、エリックにはアレックスほどの才能はなかったにしても、本を出してそれなりに売れるぐらいの才能はあったと思うんだけどなぁ。自身の才能のなさを受け入れた上で書き続けていたら、いつかささやかな成果を出せたんだろうけど、彼はそんなものより目に見えた成功を得られる経営を選んだんだと思う。文学派の方々からは散々な言われようだけど、本人が見切りをつけて利益ガン振りに徹するのは一つの美しさでもあるので、その部分は擁護したい。
その場その場でどうにかごまかして突っ走ろうとするのがワンマン社長らしい…。


・アレックス(英語担当)
…最初からキャラ立ち過ぎててこの人はキーマンではないだろうと思っていたら思いっきり主要人物だった。もうちょっと地味目の人が黒幕だったらもっと意外だったんだけど、その後の展開やテーマ的にも、「創作を愛し、金や名声など世俗的な事を嫌う若き天才」である必要があるから、全部見た後はまあ納得はいく。若さゆえの傍若無人さ(いずれ自殺した発言、僕一人で成功できた発言)がしっかり描写されていて、アレックスが清廉潔白な人物ではないと明示しているのがいい。この作品は彼の私刑の話であると思う。

・ジョルジュ(書店店主)
…アレックスの正統進化版。創作物を愛する心と、利益を追求する社会、両方への理解を持った存在。教え子に殺される、悲しい終わり方だよ…。

◆好きなシーン

・翻訳家初登場シーン
…キャラクターメインの映画は初登場のキャラ紹介パートにとにかく力を入れてるので、歩き方やものの持ち方一つ取っても個性がつたわるように出来ていてよい。

・エレーヌの独白
…話さないと自分の精神が壊れてしまうかのような逼迫した雰囲気があり、また内容に関しても「家族よりも作品をとってしまう自分」に対する嫌悪感や後悔が詰まっており、精神にくる。

・多言語リレー
…みんな色んな言語で喋ってて格好いい!!っていうのと、いやエリック撃たんのかいっていうのが入り混じる最高のシーン。

◆よくなかったところ
 エリックがかなり感情的&短絡的だから、アレックスと対等にやりあえてない印象。まあそれも、経営者vs天才創作家の構図だから別におかしくはないか。


◆最初のシーンの意図
 アレックスの独白と、燃える本屋。この作品の主人公であり犯人である人物の描写。

◆こうなってたらもっと好みだった
…アレックス以外が犯人。もうちょっと意外性が欲しかった。
立出

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