スローターハウス154

パラサイト 半地下の家族のスローターハウス154のレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.2
2021/1/29

そのうち観ようと思ってたが、君の感想を聞きたいと言われたもんだから観てみた。
『ジョーカー』もそうだけども、これ人生に愛されている人々(金持ちなど)が観たらゾッとしちゃうよな。人生にいじめられている人々(貧困層など)の、おどろおどろしく煮えたぎらせた怒りの矛先にされているわけですから。
今世界中で草の根の発奮が流行ってますし、この映画もジョーカー然り時代に応えた作品だと感じる。

(間接的に)搾取することで貧困層を生み出す金持ち=悪役というのがだいたいの人々に備わった偏見であるとは思うんですけど、でも実際、多くの金持ち達は貧乏人を搾取してやろうみたいな悪意を持って生きているのかと言えば、たぶんそんなことはあまり無いと思うんですよね。むしろ、自分の成功が社会のためになっているんだと思っている人が殆どじゃないかな。そういう自己肯定がなけりゃ、なかなか金儲けって難しいでしょうから。この作品でも描かれているように、基本的に金持ちたちは自分達は善良であると何の疑いもなく信じることのできる人々なんだと思います。自分たちは素直で善良だからこそ、キレイで清潔な環境で生きることができるんだと。この生活は俺たちの努力の結果なんだろうと。
それに対して、ただ生きる、それだけのことにゲロや糞便に塗れながら地べたを必死に這いずりまわり、人を欺き自分自身も欺いていくことで常に心身を磨耗させ、そうしてやっと食いつないでいける...そんな畜生スレスレの人生をただ黙って辿っていく、それ以外に選択肢がない貧困層の人々は、金持ちよりも圧倒的に多く存在している。俺たちはなぜこんな環境から抜け出せない?こんなに足掻いてもなお俺たちの努力が足りないと?今にも崩れ落ちそうな足元をよそに、向上心を持ち続けろと?
確かに望み通りの環境で生きるには努力みたいなのは不可欠だと思う。でもいちばん大きいのは、残酷だがやはりその人の運だと思う。そもそも努力できる環境に身を置けるかどうか、という運。

そういう運を持つ者と持たざる者の圧倒的なQOLの差を、棲み分けさせずに距離感ゼロにさせてしまったら一体どうなってしまうのか...という思考実験が、本作のテーマなのかもしれない。

人に言われていちばん傷つく悪口は「臭い」である、ってのを昔どっかで聞いたことがある。
『グレート・ギャツビー』のニックを思い出したのだが、貧乏生まれがどんなに見てくれを金持ち達に合わせてみても、身体に染み付いてしまった匂いは払拭できないものなのかもしれない。その匂いとは、嗅覚の快・不快だけでなく、本能的に感じ取れる第一印象や育ちの良さに寄るところが大きいのかもしれない。

恵みの雨はいつでも天上人たちに降り注ぐ。天からの恵みを受ける祝福された者たちが、どうして流れ去った雨水のゆくえなどに気を留めるだろうか。神からの祝福を素直に受け取る我々に一体なんの罪があるというのだろうか?

そんな神が気まぐれに降らせた祝福は地上を下るにつれ汚水の洪水となり、やがて地べたを這いずり回る畜生どもを汚物まみれにさせながら気まぐれに押し流す。
おい、俺たちの慟哭が聴こえるか?お前らに俺たちのこの汚ねえ汚ねえ人生をどうやったら知ってもらえる?
この叫びが聴こえないなら、聴こうとしないなら、聴かせるようにしてやろう...