ギサブロー

パラサイト 半地下の家族のギサブローのネタバレレビュー・内容・結末

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

半地下で狭く汚い家に暮らす一家が、高台で広く清潔な豪邸で暮らすIT社長家族に、ひょんなことから家庭教師、絵画療法士、運転手、家政婦としてどんどん"寄生"していくのだが、その過程は狡猾ながらも見事。それぞれきちんと役目を果たし社長一家の信頼を得ている半地下の家族。「能力があるのにちゃんとした仕事に就けないんだ」と思わせるためなのかなと思ったり。(実際に韓国では特に学生の就職難が深刻らしく、本編でも「警備員の仕事に大卒が殺到する」と言及されていた)

中盤まではとんとん拍子で事が運ぶものの、お話としてずっとうまくいくわけがない。キャンプ旅行に出かけた豪邸家族の居ぬ間にどんちゃん騒ぎをしていたところに「忘れ物を取りに来た」と笑みを浮かべながらやってくる"元"家政婦。怖いし、雷雨が不吉さを予感させる。

忘れ物とは豪邸の地下に棲む元家政婦の夫。豪邸・半地下に加えて、地下という第3勢力が来るとは驚き。ここからはどちらが強者に"寄生"するか、弱者同士の争いに。

ジョーカー、us、弱者にスポットを当てた映画がここ最近でいくつか出たが、(意図はしていないものの)弱者を扇動(鼓舞?)して強者に報いるジョーカー、弱者同士で団結して強者の世界を侵略するus、強者vs弱者の構図ではなく、弱者vs弱者なのがパラサイトの構図なのだろう。

なんだか「争いは同じレベルの者同士でしか発生しない」という名言や、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を彷彿させる。

地下夫婦のキャラクターもなかなかに強烈。夫はもはや地下に完全に適応しているし、人感センサーの代わりに豪邸のライトをつける。奥さんは急に北朝鮮のアナウンサー(リ・チュニ)のモノマネをし始める。そして夫が社長を崇拝する様は将軍に対する北朝鮮の人の態度に思いっきり被せている。

豪邸の家族 =アメリカや中国などの大国

半地下の家族=韓国

地下の家族 =北朝鮮

おそらくこの構図を暗に示しているのだろう。(既出そうだ・・・)

以前読んだ地政学の本に、「半島は地政学上、大国の方針に左右されざるを得ない」とあったが、豪邸(大国)に寄り添って生きる半地下・地下は南北朝鮮のメタファーに思える。

※豪邸には食事以外に韓民族特有なものは見受けられず、娘には英語を教えて居たり、インディアンのお土産やアメリカ製のテントがあったり終盤ちらっと日本製のヒーター?キャンプ用品?があったり、外国感をこれでもかとアピールしている。

半地下の家族と地下夫婦が歩み寄れなかったのは余計皮肉に感じる。

こうした構図があるからこそ、日本ではなく韓国で「パラサイト」が生まれたのだろう。

※日本でパラサイトのシチュエーションで映画を作ったら、きっと半地下家族と豪邸家族との恋愛ドタバタ劇になる。

半地下vs地下の争いは大国・豪邸一家の急な帰宅により停戦(これも朝鮮戦争のメタファーなのだろうか)。雨が強まり、半地下の家は水没。吹き出た汚水にまみれながらも半地下一家は体育館で他の避難者多数とともに一夜を過ごす。「計画通りにいかないから無計画が一番だ」と息子に言い聞かせる父。確かに「もう一つのパラサイト家族」「豪雨」はまさに計画に無いことだ。もう一つ計画外なのは「豪邸家族の冷淡さ」ではないかと思う。

大雨の翌日は晴天に恵まれ、長男の誕生日をホームパーティで仕切りなおそうとする社長奥さんは「雨が降ってよかった」と、半地下の家族の苦労はつゆ知らず喜ぶ。険しい顔でそれを聞く父。社長は運転手として半地下父の能力は買いつつも、プライベートに突っ込むと露骨に嫌悪感を示すし、父の臭いを「度を越えている」「地下鉄の臭い」を断じる。極めつけとして、ラストの惨劇で倒れる半地下娘をよそに「車のキーを渡せ」と迫り、地下夫の死体を避けた瞬間に臭いに目を背ける。遂に半地下父は堪え兼ねて包丁で社長を刺してしまう・・・

大雨を境に一気にノワールっぽくなるパラサイト。ラストの惨劇が起こるまではわずかながらも救われるのではないかと期待を持たせられる分、ジョーカーよりも絶望感を与える映画だった。同じくソン・ガンホが出ているグエムルとも空気の重さは似ているなあとも思ったり。あとギジョンが死んでしまったのが純粋に悲しい。