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あなたの名前を呼べたならのSembのレビュー・感想・評価

あなたの名前を呼べたなら(2018年製作の映画)
4.0
1950年に法律で禁止が定められてもなお根強く残るインドの身分制度を題材に、農村部出身の未亡人の女性メイドと裕福で海外から帰国した男性の禁断の恋愛を描く一作。

主人公の女性ラトナ(ティタロマ・ショーム)は自身の苦労ゆえに人一倍自立心の強い女性で、日々、主人に仕える中でも夢を持ち(都会を知らない楽観さも見えたが)、応援したくなる女性だ。しかし日常の中で揺れ動く様々な事象(特にブティックの件はあからさまできつい)を通して我々は彼女の立場を思い知ることになる。
対して主人アシュビン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)は世界を見て広い視野を持ち古い慣習にとらわれない男性だ。ただのメイドだと思っていたラトナが前向きにひたむきに進もうとする姿を見て愛情に似た恋心を抱くようになる。
しかし二人の部屋を隔てる分厚い壁が示すように彼らの世界には大きな隔たりがある。周囲の反対も強く、ましてやラトナ自身も社会規範という呪縛に囚われて逃げ出してしまう。

ラストの展開を僕はとても希望に溢れるものだと思う。スタッフや監督も同意するようにまるで実現しえない物語なのだが一筋の光明を見出せる展開になっている。それは、ラトナに対して夢を持つことや自由になることに誰かの許可なんて必要ないんだよ、とアシュビンの一言で新しい風をインドの階級社会そのものに吹き込ませるようなラストに風景が大きく変わる。

ガネーシャ祭でラトナが踊る瞬間は、すべての鎖からとき離れた女性の躍動感あふれる動きでとても素晴らしかった。また、都会で惑う主人公たちを表現するような上空からのムンバイのショット、多様なインドの情景、壁を挟むショットなど、この作品には魅力がたくさんある。

社会規範によって個人が規定されてしまう現象は日本でもじっくり考えれば自分ごととして発見できるだろうし、女性問題だけではなく自分の行いひとつを見直す良いきっかけとなる映画だ。
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