【夢で逢えたら】
母が亡くなった次の日の朝。
今でもはっきりと覚えてる。
別に泣きはらして目がパンパンとかそういう事ではなく、瞬間的にはいつもと変わらない朝だった。
でも、暫くして頭の中が現実に追いつき始めると「恐怖」とも「虚無」とも何とも例えようのない絶望的な気持ちが自分を支配して体中の力が抜けた。
でも・・・同時にどこかでホッとしている自分がいたことにも気がついていた。
(昨日の今頃はまだ生きてたっけ・・・)
かなり病気が進行して意識も朦朧とする中で、たまに意識が戻ると僕たちのことを気にかける。
でもまた直ぐに意識が遠のく・・ってのを繰り返しながらの数週間。
心のどこかで(もう楽にしてあげたい)っていう気持ちもあった。
勿論回復してほしいけど、検査結果とかを見れば現実的にそれが難しいって事も分かってたから。
主治医の先生は「希望は数%かもしれないけど、それでもまだあるから!」って最後まで頑張ってくれた。母を看取った時も一緒に横で泣いてくれたし。いい先生だった。
実は母とは父との離婚をきっかけに20年以上別々に暮らしていた。
以来再婚もせずに独り暮らしをしていた母の家を整理していると一冊の日記が出てきた。
そこには僕に対する心配と後悔と懺悔の言葉がいたるところに書いてあった。
正直母が亡くなった瞬間から、どこか現実逃避をしながら過ごしてきた僕は、初めて心の底から泣いた。
でも、同時に母の本心を垣間見た気がして安心もした。
(見放されたわけじゃなかったんだ・・・)
そこからかな・・・。
母の仏壇の前に立っても、普通に「おはよう」って言えるようになったのは。
今となっては、仏壇の前に立つたびに「これ!まただらしない事して!」と怒られている気すらするこの頃・・・。
現実を避けながら生きていくことは不可能だと思う。
きっといつか現実を受け入れる時が来る。
そのタイミングや方法は誰にもわからないけど、ある時、自分自身で頷いて一歩前に歩き出す日が来る。
そして、新しい朝を迎えてこう言うんだ。
「おはよう。今日もいい朝だね」