このレビューはネタバレを含みます
前作で伽椰子がヤバいのは十分に伝わっているんだけど、今作では霊感のある鈴木家の父親（水村泰二）によって、「これはマジでヤバいヤツである」という専門的な評価が付与される事で、伽椰子の恐怖は改めて物語的な推進力を獲得していると思えるワケです。そしてその評価を「持ってかれっぞ」という台詞に象徴的に託しているのだから、なかなか粋であると思う。
今作の終盤においては、伽椰子はとうとうそのタガが外れたかの如く、あの手この手でとにかく登場しまくるワケなんだけど、正直これは笑わない方が難しい。ただ恐怖と笑いの曖昧な境界において、その臨界点まで突き進む（そして突き破ってしまった）アグレッシブな姿勢は、とても好ましいものだと僕は思います。
しかしながら、伽椰子がハメを外して露出しまくるまで、具体的には「達也」のエピソードまでは、むしろ「見えない」事による恐怖が丹念に描かれていると思う。この場合、「見えない」のは幽霊の姿形の曖昧性という小中理論的なヤツではなくて、何が見えないって、「人の顔」が見えないのです。
鈴木達也（芦川誠）と北田良美（藤井かほり）が家で会話をするシーンでは、良美が次第に伽椰子化していくんだけど、まず彼女が突然ガクッとうつむく事によって、髪の毛で顔が完全に隠れるワケです。そうして良美の言動はどんどんおかしくなっていくんだけど、日常が途端に怪異へと変化したワケではなくて、それを本格的に怪異と認識するまでにはプロセスがある。
良美の顔が隠れたままに、良美（手前）、達也（奥）の縦構図で会話が続けられるワケですが、それは次第に手前／奥の位置関係を反転させたカットへと切り替わる。このシーンが面白いのは、その後さらにカットが変わるんだけど、今度はそれぞれを左右に配置した横構図が取り入れられるのです。
昔、三宅隆太も言っていたけど、横構図は恐怖という情動を削いでしまう部分がある。
それは一方的に怪異を怖がるような視点から、両者が向き合う「対決」のような関係を連想させてしまう、というのが三宅隆太の説明だったけど、要するに同一空間における、両者の存在的な対等性が生じてしまうという事だと思う。
このカットにおいても、そんな対等性が表れているように思うんだけど、良美なのか伽椰子なのかが分からない不気味な存在に対しては、あくまで良美と認識して接するしかないワケで、この横構図はそうした達也の心的な選択性として機能している。
でも、そんな「人と人」としての両者の存在的対等性を提示したとしても、その空間は依然としておぞましい雰囲気を保ち続けている。なぜならば、それは良美の顔が見えないからであります。
そうしてカットは改めて縦構図に切り替わり、構図の変化によってより一層高められた「顔の見えない恐怖」は、満を持しての伽椰子（≠良美）の顔のクローズアップでフィニッシュするワケです。
怪異的な異変としての縦構図、日常の平穏を保つための横構図、そしてその絶望的な崩壊としての再度の縦構図。こうした恐怖表現は、人の「顔が見えない」事で成立していると思えるのであります。
さらに「顔が見えない」恐怖について言えば、鈴木家の実家に呪いが降りかかるシーンにおいて、俊雄を見た父親が部屋から飛び出すんだけど、その時襖に頭を突っ込んでいて、顔の見えない母親が恐ろしい。
また一方で、頭を振りまくっている響子の挙動自体も怖いけど、そのアクションによって顔が見えない事がさらに怖い。
顔の喪失は、理解の不可能性を呼び起こし、呪いの不条理な恐怖そのものとして立ち現れている。
伽椰子がガンガン露出する分、呪いの対象である人間達の、顔が見えない恐怖表現がしっかりと効いていると思うのであります。
（ちなみに、「頭を振りまくる」怪異は、『新耳袋』の『正座する影』で井口昇がさらに発展させているんだけど、これは発展させ過ぎてスゴい事になっている）
そして僕が最後のエピソードに感銘を受けるのは、直前の伽椰子の暴走に打って変わって、それは怪異の原点であった「音」のみで簡潔に構成されていて、そしてさらに『呪怨』の呪いを要約してみせているからです。
改めて思えば、それはもう至ってシンプルな構造であって、こんなにも単純な事柄に対して、あの手この手でよくも様々な恐怖表現を構築するに至ったなと。呪いの構造が持つ根本的な恐怖と共に、その表現の豊かさに対する感動が押し寄せてくるのであります。
（映画における）呪いとは、テクニックと想像力の結晶とも言えるのではないか。生半可な呪いは、一笑に付されて忘れ去られるであろうこの厳しい世の中で、失敗を恐れず全力で関係者を呪い続けた伽椰子こそは、真の呪いの体現者である。リアル呪いプレイヤー。クソカッコイイと思う。伽椰子はマジin da houseでスゲーill。ピース。
