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罪の声のambiorixのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
4.0
まずもって脅迫テープに吹き込まれた子供の無機質な声がめちゃくちゃ怖い!下手なホラー映画よりゾワっとした。そこからタイトルが不気味に浮かび上がるツカミは圧巻。

ただ、前半部から折り返しまではぶっちゃけ退屈でした。時効になった未解決事件の謎をただ事務的に追いつつ処理しているだけという感じがあっていまいちノれなかった。そもそも、知らないうちに事件の当事者になってしまった星野源ならまだしも、なんで文化部の記者である小栗旬がこの事件を必死こいて調べなきゃいけないの?自分の出世のために事件を面白おかしく混ぜっ返してるだけなんじゃないの?という疑念が渦巻きっぱなしでした。

けれども、別々の視点から事件を調べていた両者が交わり、結節点をつくる中盤あたりから俄然おもしろくなってくる。観客が抱き続けた問いがそのまま小栗旬の中に内面化され、事件を追う動機になっていく。ジャンルもミステリーからヒューマンドラマの様相を呈し始めます。

とりわけ印象に残ったのが、テープに声を使われた共通点をもつ星野源ととある人物とが対話するシーン。後者が自らの壮絶な人生を語ったあとに、「あなたの人生はどうだったんですか?」と問い、前者は返答に詰まる。ここの対比はエグい。同じ事件の当事者のはずなのに、少しの境遇の違いによって人生がここまで狂ってしまう。映画館で見てたらいたたまれなくなって逃げ出したかもしれない。

そんな子供たちを事件に巻き込んだ大人はとにかく身勝手だ。社会にはびこる閉塞感、国家権力への怒り、行き場をなくした学生闘争の熱が彼らを犯罪に向かわせた。だけど、そのさいに巻き込んだ子たちのことは考えたのか?彼らがのちに罪の意識に苛まれるかもしれないとは考えなかったのか?未来のある子供すら守れんで何が正義じゃ、と言いたくなった。

最後に、何人もの人間の人生を壊し苦しめてきた「罪の声」が皮肉にも誰かの救いになる、あのラストは本当に素晴らしい。久しぶりに映画でボロボロ泣いてしまった。
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