SANKOU

罪の声のSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

罪の声(2020年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

京都でテーラー屋を営む俊也は、ある日押し入れの奥から自分の子供の頃の声が録音されたカセットテープを発見する。微笑ましい歌声に被せて、急にたどたどしいがどこか行き先を指示するかのような自分の声が流れてくるのを聞いた俊也は、やがてそれがある犯罪に使われたものだという事実を知り愕然とする。このテープに自分の声を吹き込ませたのは身内の人間なのか、自分は知らず知らずに大きな罪を犯してしまったのか、俊也は悩みながらも真相に迫ろうと動き出す。
同じく新聞社に勤める阿久津も、デスクからの指示で「ギン萬事件」と呼ばれた既に時効になったこの事件を調査する。
この事件は、ある犯人グループが様々な食品会社の製品に毒を入れて、企業には身代金を要求し、警察やマスコミには挑発文を送って世間を騒然とさせたものであるが、死者は一人もおらず、犯人グループも身代金を手にすることが出来ずに逃亡してしたまま時効を迎えてしまった。
阿久津は何故今さらこの事件を追う必要があるのかと疑問に思う。犯人が捕まらなかったのは警察の連携不足もあるが、マスコミが必要以上に世間を煽ったことも原因であるとデスクは考えており、この事件を記事にすることはマスコミとしてのけじめをつけることなのだと阿久津は言い聞かされる。
事件に加担してしまった者と、その事件を調査する者の目線で徐々に明らかになっていく事件の全貌は、想像した以上に闇の深いものだった。
自分の罪の意識から事件を調べ始めた俊也は、やがて接触してきた阿久津を最初は拒絶するが、ある使命感から彼に協力することを決意する。
実は犯行に使われた子供の声は三つあり、自分以外の二人も犯人グループの肉親の手によって犯罪に荷担させられていた。利用されたまだ幼い兄妹は事件の真っ只中に行方不明になってしまった。
自分と同じく彼らもどこかで生きているのか、それを何としてでも突き止めなければならない。
最近まで事実を知らずに結婚して幸せな生活を送ってきた俊也とは対称的に、兄妹に待ち受けていた運命は残酷なものだった。
彼らは自分の父親が犯罪に荷担してしまったが為に、全てを捨てさせられヤクザに囲われて生きることになってしまった。
それでも夢を諦めれずに脱走を図った姉は殺されてしまい、弟もずっと追われる身として地獄のような日々を過ごしてきた。
大人たちの勝手な都合で、理不尽な暴力の世界に突き落とされてしまった子供たち。
それは彼らの責任ではないし、彼らの力ではどうすることも出来ない問題だ。
やがて犯人グループにもただ金を奪い取ることだけが目的ではない、彼らにとっては正当な理由があったことが分かる。
彼らは国家権力による被害者だった。社会に対する不満や強い憤りは誰しもが感じていることだと思う。特に自分自身や身内の者が被害を受け、それによって人生を壊されたとなれば尚更だ。
しかしどんな崇高な思想を持っていても、見ず知らずの人間を巻き込んでまで報復しようとする行為は明らかに間違っている。
犯人グループは、子供の声を使うことによって誰が罪を背負うことになるのかを想像していなかった。
俊也も、自分のせいで姉が死んでしまったと思い込んでいる弟も、どうしようもない罪悪感を背負って生きている。
勝手な理屈で人生を壊されるのはいつも弱い立場にいる人間だ。
とても心に重くのしかかるテーマだったし、完全に他人事とは言えない内容でもあった。自分がもし犯人たちと同じような立場に立たされたら、あまりにも理不尽な仕打ちに恨みを抱き、報復をしようと考えてしまうかもしれない。
阿久津がただスクープを取って注目されたいという人間ではなく、心からこの事件を解決して被害者の心に寄り添いたいと考える人間だったのが救いだった。
マスコミも彼のような人間ばかりだったら、世の中はもっとマシになるだろう。
主役の俳優二人以外にも証言者として脇を固めた俳優陣がしっかりと存在感を出しており、かなり見応えのあるドラマでもあった。
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