KS

パブリック 図書館の奇跡のKSのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.6
オンライン試写会にて

“Make Some Noise!"

社会における情報の公共性を担保する図書館を舞台に、声を上げる重要性を人権的観点から扱った社会派コメディ?映画。

寒波に見舞われたアメリカ・オハイオ州シンシナティで、ホームレスの人々がで起こした防寒のためのシェルターを求めたデモの顚末を描いた本作は、声のデカい者による議題設定の力とその情報を精査する事のないメディアの問題点を示す。それだけで終わらせず、それに対して示した抗議者たちの秘策が痛快!

デモ隊と警察、それだけでなく同僚や友人、メディア、地域のコミュニティなど図書館の外の動きを映すことで勧善懲悪に回収されない作りにしているし、デモが同じ街に住む有権者に対しての訴えである事を示している。民主主義の権利としてのデモは、社会的弱者が声を上げる数少ない手段だが、それを生かすか殺すかは、デモを起こした当事者でなく目撃した市民であることを気付かされた。
あとメディアの役割とは、その有権者に対して判断できる材料を提供することであり、型にはめた分かりやすい物語を創作する場でない事も示されている。

退役軍人のPTSD問題や、医療者から提供された薬で引き起こされるオピオイド依存の問題(ドラックの問題)、アルコール依存の問題など、様々な事情でホームレスになる人たちがいるが、彼らの主張は権利なのか、ノイズなのか。ホームレスは怠け者なのか?怠け者であったとしても彼らに生きる権利はないのか?

本作はホームレスになる背景が描かれていないため、新自由主義を好む人や働かざる者食うべからずと考える人は、ホームレスになったオマエが悪いと考えるかもしれないが、そう考える人は、まず真冬に外で5分間、道路に寝そべりながら日本国憲法第25条“すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する”を暗唱することをオススメします。

この映画の関連作品としては、新自由主義の問題点を描いたケン・ローチ監督作品や映画『21世紀の資本論』、退役軍人のPTSDの問題を扱った『マッドバウンド』、戦争と金の問題を扱った『バリー・シール』など色々あるので、それらの映画を見ると彼らがホームレスになったのは自業自得なのか、社会として彼らの権利を守る必要があるのではないかとコミュニティの存在価値を考えるヒントを与えてくれると思います。
KS

KS