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はちどりのclementineのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.0
 舞台は94年から95年にかけての韓国,ソウル。当時の韓国に対しては,どちらが先にワールドカップ本大会に出場するかという『永遠のライバル(散々メディアで呼ばれていた)』といったイメージしかなく,後はキムチぐらいだったと思う。歴史的に見ると民主化への途上であり,ヨンジも学生運動に関わっていたとされる。97年には通貨危機も控えていることから,変化のエネルギーが良くも悪くもいたるところに渦巻いていたのだろうと推察される。

 高層団地の10階を中心に起こるウニを巡る出来事は,いずれも自分の身に起きていて不思議のないことばかりである。14歳の彼女が抱く想いは,状況や環境,大小はあれど自身を14歳当時の感情に引き戻すに十分であった。そういった意味ではリリイ・シュシュ的だったと言える。あのような生々しく等身大の感情をメタ的に捉えられるようになるのが,一般的な意味での大人になるという一つの要素であると思うのだが,その上で自分が動かす指を意識することの大事さを教えてもらった気がする。そういえば自分も昔は指をゆっくりと動かし,骨の軋む音を聴いていた。

 音楽は単体としては良かったものの,いささか支配的であったように思う。例えば,キックの音は無い方がいいのではと感じる場面もあった。静けさも良い要素である映画だったので,万引き家族の細野晴臣のスコアのように没個性的であるとまた違った印象を受けただろう。が,これが今の感覚で撮られた映画なのかもしれない。

 韓国の家庭料理が食べてみたくなった。日本では菜箸とされるような長いお箸でおかずを取り,ご飯が入ったお茶碗をお皿としてスプーンで食べる料理はとても魅力的であった。

 鑑賞後,街の景色が気になった。外れかけた看板や,蛍光灯で照らされるマンションの廊下。視界に飛び込む男女のバックグラウンドまで及んだ。こういった気持ちになる映画は多くなく,またいずれ観たいと思った。
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