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ブラック・ウィドウのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ブラック・ウィドウ(2021年製作の映画)
5.0
できれば大きなスクリーンで見たかった

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ブラック・ウィドウの前に突如現れた妹・エレーナ。姉妹は自分たちを暗殺者に育てたスパイ組織「レッドルーム」の秘密と恐ろしい陰謀を知る。唯一の味方は、かつての偽装家族だけだった。

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久しぶりのマーベル映画。
ソコヴィア協定の話が出たから「エイジ・オブ・ウルトロン」の後で、「シヴィル・ウォー」の前くらいかしら?しっかり過去作復習してくれば良かったと、序盤で後悔。でも大半の観客はMCUを隅々まで見てるはずないので、初見向けにも間口を広げてくれるはず……だと思ったけどそうでもなかった。せめて「アベンジャーズ」は見ておかないと意味わからなそう。

コロナ禍にあって、ディズニーと日本の映画興行界の深い溝が露わに。大手シネコンに軒並みそっぽ向かれて、ミニシアターでマーベル作品をみる不思議。どうにか仲直りしてくれないと、MCU作品はもとより、ディズニー作品を映画館の大きなスクリーンで見るのが難しくなるかもしれない……とか云々。

「アイアンマン2」で初登場して以来、アベンジャーズの重要人物として長年MCUに貢献してきたナターシャのスピンオフ。いまやスカーレット・ヨハンソンの代表キャラ。「ゴースト・ワールド」や「ロスト・イン・トランスレーション」の繊細な美少女がのちにスパイアクションのブロックバスター超大作で世界を沸かすなんて、誰が想像できようか。当初はエミリー・ブラントがブラックウィドウ役で企画が進んでたらしいので、人生何がどうなるか分からんもんだな。


今更ながら、ブラックウィドウって「クロゴケグモ」って蜘蛛のことだと知った。真っ黒い丸々としたクモで、オスに比べてメスのが大きい。毒牙があるので、東京都では危険外来生物として注意喚起されている。成熟したメスには腹部に真っ赤な砂時計型の模様があり、映画のメインビジュアルにもなってた。時々交尾の後でメスがオスを食べちゃうのもキャラクター造形に生かされてる。
となると、劇中妹に何度もイジられてた三点着地って、攻殻機動隊がモチーフじゃなくてクモのイメージだったのかしら?

現実の問題を上手に反映させるMCUのシリアス路線。児童虐待・人身売買を入り口に、近年ハリウッドで暴露が続いてる性差別の実態や、パワハラ野郎に鉄槌を下して見えた。具体的には悪名高いワインスタイン、映画「スキャンダル」の元にもなったFOXのロジャー・エールス、さらには同じMCU仲間だったジョス・ウェドン監督。現実世界でも絶賛制裁受け中だけど、改めて映画を通じて「NO!」を突きつけてる感じ。女の子を大勢集めて、揃いの制服で操り人形にする構図が秋○康っぽく見えた。AKBのOB達が秋元○をぶん殴りに行く話に脳内変換するとより楽しい。

オッサンらの妄想物からの逸脱って考えると、お仕着せの制服を脱ぎ捨てて、(たとえ一般的にはダサくても)自分なりの服を着るって物語でもある。服飾が単に機能のためだけじゃなくて、その人自身を表明することを思い出させてくれる。食うことと同じくらい、着飾ることの意義を問いかける物語でもある。

繋がりのない偽家族が、徐々に家族になっていく。アベンジャーズを筆頭にMCU作品群に通底するテーマ性をちゃんと踏襲。ホームコメディの部分もあるんだけど、殺人マシーン一家の団欒シーンってどういう気分で見ればいいのか。
血の繋がりより、心の繋がりって大変ベタなテーマだけど、分断と相互不信の時代にあって

どうしたわけか全編通じて「007 ムーンレイカー」オマージュ。
そもそも劇中で見てるし、映画の構造からラスボスの陰謀。秘密基地や空中戦etc…共通点数多い。てことは今作でいうジョーズってオルガ・キュリレンコなのかしら? 彼女自身も「慰めの報酬」でボンドガールだったし、ナターシャのパパことデヴィッド・ハーパーも出てたな。スパイアクションと笑いの混ざり具合含めて、ロジャー・ムーア版007愛が感じられた。


(追記)
ディズニーと日本の全興連の隔たりの一方で、主演のスカヨハ様がディズニーを提訴。今作の報酬を興行収入に基づく仕組みの契約にしており、マーベル・スタジオも独占公開を保証していたが、封切日に「ディズニー・プラス」で同時配信。プロデューサーにも名前を連ねてるだけに、出演者・スタッフを代表して訴えた部分もあるような。ナターシャの真の敵が、超巨大に膨らんだエンタメ企業コングロマリットだったっていう……。妄想はさておき、今後のMCUや配信に大きく舵を切ったディズニーの動きも気になる夏。


42本目
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