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燃ゆる女の肖像のnaoのネタバレレビュー・内容・結末

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます


美と愛

極限まで無駄を削ぎ落としたミニマルな映像、ほとんどの場面がブルターニュの海岸と古い屋敷で完結し、劇中で使われる音楽もたった2曲
放たれる言葉も最小限に抑えられ、交わされる視線や息遣い、表情で耽美的に描かれる切ない愛の交錯の物語

とてつもなくシンプルな作品ですが、信じられない位に心を鷲掴みされました…

マリアンヌとエロイーズの画家とモデルという「見る」「見られる」関係は主に視線を通して表現され、肖像画を描き、描かれるうちに二人が惹かれあっていく様を、光、影、色など目に映るもの全てを用いて艶めかしくかつ美しく描写する
この作品の美しさの所以とは、鮮やかな色彩と完璧なまでの構図からなる絵画のように美しい圧倒的な画の力。ここに作品を"見る側"としての視線も惹きつけられてしまう
肖像画を描くために芸術家がモデルを見つめるのと、恋愛感情も含めて相手を見つめるという2つの構造の中に、この作品を鑑賞する鑑賞者の視点を内包させることで、かつてないほどの没入感を与えてくれます

その真骨頂とも言えるラストシーンでは、スクリーンを通じてマリアンヌの視点を借りる様に、エロイーズの微笑みと涙、ヴィヴァルディの協奏曲第2番ト短調 RV 315「夏」を見ることになる
鑑賞者の視線とも言えるマリアンヌの視線を感じながらも決して振り返らないエロイーズ

二人の心が燃え上がる瞬間に流れ出すヴィヴァルディの夏はそれまでの静寂を打ち破るかの様に緩急という言葉ではおよそ片付けられない鮮烈な印象を与える
そして、エロイーズの微笑と共に流れる涙からは、2人の想いの深さと切なさと共に、あの数日間の愛のすべてが伝わってくる

「28ページ」、ヴィヴァルディの「夏」、そして「オルフェ」
親密になっていく過程で語りあった音楽や文学がすべて伏線となり、島を去るシーンに特別な意味を持つ

忘れられぬ人との想い出は、人生において慰めともなれば時に苦しみを与えもする
「愛」が凝縮されたようなあの数日間の"想い出"は、作品と人の心の中に「永遠の芸術」として生き続けるということを視線を通して心に直接訴えかけてくる

このカットが流れた瞬間、何故か胸の動悸が止まらなくなっていました
魂に染みわたるほど美しいこのラストシーンがいつまでも終わらなければいいのにと思わず考えてしまう心に刻まれる余韻の深さ

それが心を掴んで、しばらく離さない

美しい愛の物語
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