ブラックユーモアホフマン

燃ゆる女の肖像のブラックユーモアホフマンのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.7
いまいちノレなかった。

妙にあっさりしたこの編集はなんだろう。余韻を残さないで次のシーンにいっちゃう。脚本も演出も撮影も編集も、終始ちがくね?と思いながら観ていた。

二人の心の距離が近づいていく過程があまり見えず、ドキドキしなかった。複数回観たら感想変わるんだろうか。少なくとも一回観た限りは、単純に下手な映画に感じた。

他作品では『ダゲレオタイプの女』や『仮面/ペルソナ』、『君の名前で僕を呼んで』などを想起した。が、この3本の方が圧倒的に面白かったと思う。

見る/見られる関係の逆転、という大変基礎的な映画演出を本作も試みているわけだけど、まあ全然上手くない。逆転した瞬間にドキッとさせられなきゃしょうがない。

確かに『ピアノ・レッスン』との二本立ては納得。話の内容というよりはイメージが似てる。冒頭の大海原を渡る小舟もそうだし、中盤にある有名な物語を話題に出しておいて、終盤の展開と重ねるという構成も似ていた。

しかしあの亡霊みたいなのが見えるくだりも、最後の展開のためでしかなくてやっぱちょっと下手だな。主人公の心象風景でもあると思うけど、そうでしかないなら出さないで欲しい。その点『ダゲレオタイプの女』は、同じコスチュームを着た母の亡霊と娘の2人が屋敷にいるという設定でやってて、やっぱ上手いよなあと思う。

撮影が特にしっくり来なかったなあ。2人を撮るときのアングルやサイズがいちいちピンと来なくて。会話シーンのサイズずっと同じだしな。せっかく広い屋敷なんだしもっと引けば?ここぞという時に寄れば?と思ったり、カメラもっと正面入れば?逆に、今正面じゃなくね?とか、気になり続けた。

【一番好きなシーン】
・侍女のソフィ関係のシーン。
・最後、下に降りると男がいた、って瞬間の「あ、楽園が汚された」感は良かった。唯一ドキッとした。


だからそこから思うのは、女性3人のあの数日間は彼女たちにとって幸福な時間であっただろうけど、あまりに安心感がありすぎてドラマとして弱いんじゃないかという。男の視線とか、外部からの暴力的な力学によってその危うい均衡が崩れかねないという予感がないとハラハラしない。
タイムリミットという要素はあるけど、ちと弱い。もっとそこを強調した演出にするか、他の要素も組み合わせるか、すべきだったのでは。