てる

燃ゆる女の肖像のてるのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.7
レズビアン物のロマンス作品。
静かで美しい作品だった。
生々しさがなく、ただ単純に青春恋愛映画として見える。でも、二人の恋が実ることは許されない。男尊女卑のこの時代を鋭く切り取った、まるで、オペラのように儚く、美しく、可憐な恋愛模様。
この作品は男がほとんど出てこない。主な登場人物は、三人のうら若き乙女だ。母がいない短い期間で、堕胎を目の当たりにし、恋をし、失恋する。彼女たちはこの短い間で目まぐるしく成長を果たしたことだろう。
堕胎。これは女性の身でしか知り得ることの出来ない苦しみや悲しみだ。この目を覆いたくなるような光景を目の当たりにしたという経験は、彼女二人の心境に大きな影響を与えたのではないだろうか。
男と繋がることで、なり得るかもしれない苦悩。それを感じずにいられるのは、女性同士で繋がるということではないだろうか。それを無自覚のうちに忌避したからこその二人の恋愛だったように思えてならない。
ただ、最後に劇場で見せた彼女の涙はその疑似恋愛を越えた想いがあったように感じる。子を成してもなお、想い焦がれる相手がいる。しかしその想いはどんなことがあろうと叶うことはない。嫁ぎ、立場が変わり、責任を伴った彼女は、その立場どおり毅然とした態度であろうとしている。胸の中には想い人がいるが、目を向けることも戒め、必死で自分を押し殺し、震えながら涙を流した。その顔は痛々しいが、美しく、可憐であった。
BGMなんてほとんどなかったが、この最後の最後で胸を掻き立てるような音楽はズルい。こちらも涙を堪えてしまった。
てる

てる