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ホイッスラーズ 誓いの口笛のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

3.2
【ルーマニアの口笛通信は公開鍵暗号だ!】
第72回カンヌ国際映画祭でルーマニアの鬼才コルネリュ・ポルンボユが新作を発表した。コルネリュ・ポルンボユ監督は日本でも『トレジャー オトナタチの贈り物。』が紹介され、あまりにビザールな話に映画ファンを驚かせた監督だ。そんな監督が最新作で選んだテーマは《口笛》。口笛を使った汚職警官ものとこれまた奇天烈な内容となっていました。

イギー・ポップの《The Passenger》に乗って、男が島にやってくる。彼はさすらいの男だ。汚職警察だ。彼はマフィアと結託しようとしている。そのためには、マフィアが使っている口笛言語エル・シルボを習得しなければいけない。講師が配置され、彼はレッスンを受ける。スペイン語のエル・シルボをルーマニア語仕様に変幻させ、最初は掠れ音しか出なかった彼も、ピュイ、ピュイと口笛を鳴らせるようになる。

本作が奇妙なのは、いくらマフィア間でしか通用しない口笛言語を使っているからって、街中で白昼堂々口笛会話をし始めるのだ。これでは悪事が外に漏洩してしまうのではなかろうか?と思うのだが、これはネットワーク技術における公開鍵方式に近いものだと解釈すると腑に落ちる。暗号を傍受されても、自分の持っている鍵がなければ解読が不可能なのだ。アナログの公開鍵暗号、公開鍵暗号を可視化するツールとして口笛を用いているところに鋭さを感じます。

しかし、この強調された映画のシンボル口笛は、ある種の陽動として機能している。スパイというものは大きな陽動の影で別の暗号を流し暗躍するものだ。本作においてもう一つの主人公がいる。それは《オペラ》である。本作では、オペラの楽曲が多く盛り込まれている。そこには、ノワールもののクリシェが暗号のように挿入されていた。前半、男がホテルを目指す時に流れるのはベッリーニ『ノルマ』の《Casta Diva》。これは、ジェットコースターにおける登りにあたる曲であり、破滅への道のりを盛り上げる楽曲である。そしてこの曲を用いることで、女を巡って男が破滅していくことが予言されていく。他にも『フィガロの結婚』より《L’ho perduto》等が使われたりします。冒頭の《The Passenger》も主人公のさすらい性を強調させる音楽であったことから、コルネリュ・ポルンボユは口笛以上にキャラクターの肉付けとして音楽を用いて、暗号化させていく。

これにより、観る者は聴こえているのだが、解読できないことによる不気味さを楽しむことができる。正直、奇妙にねじ曲がった汚職警官とマフィアの抗争の顛末は藪の中。よく分からない。しかし、そのよく分からなさ、ポルンボユの手の上で転がされる面白さを楽しむ作品と言えよう。