akihiko810

レ・ミゼラブルのakihiko810のレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.0
《友よ、よく覚えておけ。世の中には悪い草も悪い人間もいない。育てるものが悪いだけだ。》ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』より

フランスの社会派犯罪ドラマ。字幕なしで視聴

パリ郊外に位置するモンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台でもあるこの街も、いまや移民や低所得者が多く住む危険な犯罪地域と化していた。犯罪防止班に新しく加わることとなった警官のステファンは、仲間と共にパトロールをするうちに、複数のグループ同士が緊張関係にあることを察知する。そんなある日、イッサという少年が引き起こした事件が大きな騒動へと発展。事件解決へと奮闘するステファンたちだが、事態は取り返しのつかない方向へと進み始めることに……。

本作は、2005年に実際に起きた「パリ郊外暴動事件」を元に作られたという。
事件のきっかけは「少年がサーカスの子ライオンを盗んだ」ということ。
そこに大人たちの思惑が絡み合い、あれよあれよという間にややこしい事態に陥ってしまう。
移民、経済格差、人種問題などが絡み合い、反発と憎しみ、暴力の連鎖が巻き起こる。
一見、警察官(国家)と市民(移民たち)の対立にも見えるが、彼ら警察官も「国家権力」という単純なものではなく、「一労働者階級」にすぎない。市民にとっての「社会の敵」、ないし「社会の暗部」は根深くて自明ではない。

映像面に話を移すと、本作は撮影ドローンを駆使して、製作費をかけなくてもスペクタクルな映像を撮ることができたという。
手持ちカメラでのドキュメンタリータッチの撮影も、臨場感と緊張感があってよい。
ラストの結末は、フランス社会のこれからのまずますの混迷と、わずかな希望が暗示されているように思える。
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