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家族を想うときのトレバーのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
5.0
イギリス、ニューキャッスル。

夫は建設業、妻は介護サービスで懸命に働き
一度はマイホームを手にするが10年前に起こった
住宅金融組合の破綻によりマイホームローンのみ
借金として残り、家を手放す事になる。
アメリカでのリーマンショック同様の事態が起こっていた。
(現在、すでにゴールドマンサックスは事業回復し
当時ローンを組まされた人達は今も苦しんでいます)

破綻により建設の仕事も失い、様々な仕事を
薄給で勤めてきたが借金は減らず借家暮らし。
2人の子供は、勉強も出来、いい子に育っている。
何とか借金を減らしマイホームを手にしたい。

宅配業。個人事業主。働いた分、収入が得られる。
但し、車はレンタルか購入。
妻の、介護サービスで必要だった車を売り頭金にして車を準備した。

2年。2年毎日14時間働けば、借金を返して家も持てると妻を説得して。

妻は、バスで老人や体が不自由な人の家に通う事にするが
バス移動、バス待ちのために拘束時間が長くなった。
実際の勤務の倍の時間、拘束される。
介護を待つ人の排泄物の匂いを堪えるため、
鼻にメントールを塗ってから家に入る。

夫は真面目に宅配を続けたが、子供のことは妻に任せっぱなしになる。
子供の苦しみに目を向ける事を忘れていた。愛しているのに。

息子は、頭が良い分将来の見えなさに絶望していた。
自己表現を仲間と共にグラフィティという犯罪行為として足掻いていた。

娘は、両親と兄が仲良くしてくれる事を
心から願い、胸を痛めている。
疲れ切って寝落ちした両親に毛布をかけてあげ、
自分は夜眠れないでいる。

息子の停学や万引きにより仕事を急遽休まなければいけなくなり
高額の罰金を取られてしまう。仕事の疲れ、悩み、
夫はギリギリと追い込まれていき遂に息子に手をあげてしまう。
後悔する夫。妻と娘の努力により関係を修復出来そうな矢先、
夫が事件に巻き込まれるー。


今挙げたようなひとつひとつのエピソードを丹念に描く事により、
観ているこちらにも澱のように辛さ、しんどさがのしかかってきます。

終わらない、ゴールが見えない、状況が良くなる兆しの見えない日々。

AMAZONをはじめとするネット販売事業。
システムに組み込まれて、ひたすらに働き続ける。
日本でも、コンビニのフランチャイズは同じ図式。
働けど働けど豊かにはならず、でも休めない。
辞められない。辞めたら借金が残るだけ。
辞めなくても、減る事はないけど。

誰にでも出来る仕事だから、給料が安いんだそうです。
堀江というクソ外道がほざいてました。
その仕事を懸命にしている人達がいるから、
世の中は成り立っているというのに。

家族を愛しているだけ。幸せに暮らしたいだけ。
唯一救いと思える事があるからこそ、
より地獄にしか思えない。

約2時間、胃が締め付けられるような思いで
映画を観たのは初めての事でした。

ケンローチ監督が引退を撤回して、
イギリスのみならず世界中で起こりつつある
雇用形態の、企業のみが利益を上げ搾取する
仕組みを世に訴えるべく
リサーチを綿密に行った上での渾身の作品です。
とても辛い作品ですが、ぜひご覧頂きたいです。
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