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シチリアーノ 裏切りの美学のしのレビュー・感想・評価

3.9
みなさん、ベロッキオは死にました。

画的な要素は間違いなくベロッキオだけれど、逆に言うとそれだけが映画を最後まで駆動している。脚本のクレジットがベロッキオ以外何人も列挙されているところからも認めたくない事実、つまりベロッキオに映画を構成する体力はもう残っていないことが伺える。キアロスタミが『ライク・サムワン・イン・ラブ』か『トスカーナの贋作』どちらかのインタビューで言っていた、スタッフが全員自分の映画を見ていて、カメラも知っている状態で、監督が持つべきコントロールを明け渡してしまったのかな。今作では、あのAI美空ひばりのような哀しい状況が起きている。誰かがベロッキオの自己引用の宝庫や!みたいなことフィルマに喜々と書いてたけど俺は哀しい気持ちになった。AIだからこそ、映画は軽く、映画を通してあんなにも他人ごとだったのだと思う。

ただ、強力にスタビライズされたカメラワークにCG、文字効果など、これまでのベロッキオには見られなかった演出が見られるのは「今」の映画を取り入れていて流石だと思う。特に、殺人と増えていく数字のあの衝撃、最初の違和感と数字に約束された死はかなり意外性があった。ベロッキオらしいショットと、らしからぬショットを峻別するのは面白い作業ではある。

我々はベロッキオに何を期待し続けているのか。それは強烈な、リアルを超えるifの映画的提示であって、彼の傑作とされている歴史モノの作品群にはそれがあった。今作ではただただ事実のみが重くのしかかり、映画はその重みを受け止めることに全ての力が割かれ、結果鈍重なものとなった。

まぁベロッキオとしては裁判のシーンが撮れれば満足だったのかなという気もする。あそこだけは、まさしく狂宴だった。そしてそれが数少ない救いだった。
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