あくとる

エターナルズのあくとるのレビュー・感想・評価

エターナルズ(2021年製作の映画)
4.0
"苦悩してもなお、―"

『クロエ・ジャオ×MCU(ヒーロー映画)』という異色の組み合わせ。
長編映画3作目にして『ノマドランド』でアカデミー作品賞を含めて3部門受賞という紛れもない才人。
そのずっと前に起用を決定していたMCU関係者の先見の明もさすが。
MCUの監督選びの慧眼にはいつも驚かされ、観て納得する。

クロエ・ジャオ監督の作品は『ザ・ライダー』と『ノマドランド』を鑑賞したが、とにかく"繊細な感情の機微から成る深い人間ドラマ"を描く達人というイメージ。
また、監督のこれまでの作品では自身で脚本を書いていたが、本作は初めて他人の手が加わった脚本という点も注目ポイントだろう(※パンフレットを確認したところ、脚本は「クロエ・ジャオandクロエ・ジャオ&パトリック・バーリー」、ストーリーは「ライアン・フィルポ&マシュー・K・フィルポ」とのこと[原文ママ])。

なかなか感想に入らず何を長々と書いているんだと思われるかも知れませんが、本作においては、この監督の"作家性"こそが重要だからです。
今回はMCUの他作品との繋がりがない分、監督の過去作を予習しておくのが望ましい。

先に言っておくと私は断然"賛"の立場です。
MCU映画としてはかなり異質だが、クロエ・ジャオ映画としてはこれが正解だろうと思います。
紛うことなきクロエ・ジャオ映画。
そのため、"明快で爽快なヒーロー映画"を求める人にはとてもかったるく感じるシーンが多いだろう。
非のレビューで"DC映画のよう(に暗い)"という文言を見かけたが、確かにそういう部分もある(ただし、その"深み"は段違いだと言っておきたい)。

本作は今までのMCU映画のなかで最も人間の内側を深く描いた作品だろう。
"エターナルズ"というある意味人間から最もかけ離れた者達を通して、これ以上なく人間臭いヒューマンドラマを紡ぐ。
それは人生における苦悩に次ぐ苦悩と葛藤であり、不完全さや脆さであり、何よりも純粋な愛である。
永遠だからこその恐怖。
永遠だからこその切なさ。
自分達の使命に忠実に生きてきた彼らの信念が、存在自体が揺らぐ。
その先にあるそれぞれの選択に深い感慨を味わうような淡い作品なのである。
やはり、これ以上なくクロエ・ジャオ節であり、非常に見応えがある。
登場人物皆に奥行きがあって血の通ったドラマであり、一人一人を丁寧に描く。
そのせいで上映時間が長くなったのは仕方ない。

ヒューマンドラマ以外を蔑ろにしているかと言うと、そんなことはなく、確かに中盤に分かりやすい盛り上がりがないものの、序盤とラストには激しい戦闘アクションがしっかりとある。
チームならではの個性を活かした連携もあり、むしろ経験がないはずなのに、ヒーロー映画の要点をしっかりと押さえていると好印象だった。
広大な自然を捉えた画やVFXを駆使した画もどちらも美しい。

MCUは良くも悪くも柔軟なので、批評家たちの評判の悪さから、次回作では降板なんてこともあるかもしれないが、自分はやはりクロエ・ジャオに続投してもらいたいし、ヒーロー映画にもそういう多様性が必要なのではないだろうか。
断然支持します。