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フリー・ガイのsyuheiのレビュー・感想・評価

フリー・ガイ(2021年製作の映画)
4.0
2021年のショーン・レヴィ監督作品。

世界中が熱狂するゲーム『フリーシティ』のNPCの1人ガイに変化が起きる。ただのプログラムに過ぎないガイは、ある女性プレイヤーとの出会いにより行動が変化。その裏には開発企業が過去に買収して盗用したコードが絡んでいた。続編ゲームの発売が迫る中、ゲーム世界の存亡を賭けた戦いが始まる。

もしグラセフのようなゲームのNPCが意思を持ったら?それだけのワンアイデア勝負の映画かと最初は誰もが思うのでは。実際『レディ・プレイヤー1』『マトリックス』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『シュガー・ラッシュ』的要素を少しずつ、それに『トゥルーマン・ショー』っぽい味付けではある。

ゲーム部分の描写はかなり凝ってて面白い。背景にちょっと映ってる初心者プレイヤーがぎこちない動作を繰り返したり、倒した相手のカメラ付近でしゃがむ動作を繰り返す挑発行為など、この手のゲームに詳しい人がニヤリとできるディテールがたくさん。カリスマプレイヤーのマヌケなnerdyさも笑えた。

ゲームのディテールといえば、開発側やゲーム実況、他作品パロディといった視点も多数盛り込まれている。NPCの外見をスキンと呼ぶ、キャラのセリフが決まっていない部分のジョーク、なんとライトセーバーまで出る始末。観ていて飽きない。グラサンのやり取りは『ゼイリブ』パロとも思える。

ジョーク要素は少々やり過ぎとも思えるが本作が発する普遍的なメッセージに比べれば小さい。それは、"この世界にモブキャラなんて居ない"ということ。我々はリアル世界の生身の人間を人生を持たないNPCのように扱っていないか?SNSやギグワークサービスを使った経験がある多くの人が思い当たるかも。

続編の発売と同時に前作のワールドが全部消えるのは変じゃない?とか、アルゴリズムが人工知能になるって『攻殻機動隊』の人形使いそのまんまじゃない?とか、このゲームが渋谷の街頭ビジョンで中継されるほど人気って無理があるんじゃない?とかツッコミどころは多い。製作側も多分承知と思われる。

にも関わらず、本作は非常によくできている。よくこれだけの要素を120分以下に収めたなぁと感心。近年CGが発達しすぎて映画の多くが本質的にアニメ化しているというウンザリ感を逆手に取り、また、虚構と断じられがちなゲーム世界を舞台に現実世界に向けたメッセージを発するという逆転の発想の勝利。

英語表現と演出の連動も良い。後半、ある人物がサーバ室に警備員を呼ぶシーン。"Security!"と叫ぶと"Security"の文字をプリントしたシャツを来た警備員がやってきて別の人物をつまみ出す。その彼が発する"He can call you by your real name."というセリフ。本作のメッセージを象徴するシーン。

もう1点、最近のゲームやその開発、ゲーム実況という楽しまれ方、アルゴリズムやAIという概念について、造り手側の理解レベルが高い。これは同種のトピックを扱った邦画が珍妙なことになりがちな現象と比較するとわかりやすいかも。AIを天使だ悪魔だと表現してたNHKとか、情けないやら恥ずかしいやら。

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