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朝が来るのpriskyのレビュー・感想・評価

朝が来る(2020年製作の映画)
3.9
「あなたは誰ですか」という言葉。とても残酷で、胸に突き刺さった。育ての親夫婦が妊娠に関してつらい経験をしたのは理解している。しかし、努力と運と縁があって親になれたことを、美しいストーリーとして自分たちに刻もうとしていなかったか、という疑念がよぎった。

私たちには可愛い子どもがいる、子どもには2人のお母さんがいる。この子は、生みの親にも育ての親にも愛されている幸せな子どもなんだ。

そんな美しいストーリーのなかに、傷つき疲れ果てた生みの親の姿はない。だから、あの夫婦は「子どもを返して」と言う生みの親を受け入れられなかったのだと思う。知らず「なかったこと」にしていたのだ。

自分が産んだ子を育てられないとき、代わりに育ててくれる人がいる。だから育ての親は、産みの親から感謝される存在だと思いがちだが、実際は、「安定した生活だけでなく、すべてを欲しがり、子どもを奪っていく憎い存在」だと考える産みの親もいることに、改めて思いを馳せた。

やはり、養子縁組は決して”美しいストーリー”ではない。

それでも、養子縁組はもっともっと広がっていくべきだと思う。望まない妊娠と出産は減ったほうがいいけれど、現実に、どうしたって、命は生まれてくる。その命を抱きとめる手が、産んだ本人でないならば、別の人が手を差し伸べなければならない。すべては、子どもの命のために、生きていく未来のために、と思う。

井浦新演じる夫が、酔っ払いながら自分の体のことや不妊治療のことを、おどけて話すシーンがつらかった。

エンドロール最後の、子どもの言葉が胸に沁みた。子どもが産みの親に対して、そんな風に言える関係が築けることを祈る。
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