SANKOU

朝が来るのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

朝が来る(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

世の中は不条理なもので、心から子供を欲しいと思っている人たちが子宝に恵まれず、子供を産むことを望んでいない人の元に新しい命が宿ることがある。
もちろん無責任でどうしようもない親もいるが、やむを得ない事情によって子供を育てることが出来ない親もいるわけで、この映画はそうした様々な事情を持った人たちの心にも寄り添った作品になっている。
厳しい現実を映し出しているが、とても暖かく公正な作品であると感じた。
物語は幼稚園から小学生に上がる前の年頃の朝斗と母親の佐都子との仲睦まじい姿から始まる。
ある日幼稚園から佐都子宛に朝斗が友達を怪我させてしまったという連絡が入る。朝斗自身は否定をしているが、実際にどのような状況下にあったのかは定かではない。怪我をした子供の親は、誠意を見せて欲しいと佐都子に治療費などを請求するが、事実がはっきりしないので佐都子はそれを拒んでしまい険悪な仲になってしまう。佐都子は朝斗を信じ抜くことを心に誓う。結果的に子供が怪我をしたことに朝斗は無関係であることが分かるのだが、子供たちに悪意がなくても何か事が起こってしまった場合、その責任は親が取らなくてはならない。そしてどんな状況であれ、親は必ず子供のいちばんの味方でなければならない。
子供を育てるということはそれほど責任の重いことなのだ。
そして場面は過去に遡り、実は栗原夫妻には体に問題があって子供を作ることが出来なかったという事実が明らかになる。
一度は子作りを断念した二人だが、テレビ番組の特集で特別養子縁組の制度があることを知る。
「親が子を探すのではない、子が親を探す場でありたい」
ベビーバトンという団体の代表である浅見の言葉に心を動かされた清和は、自分たちは親になれる素質があるのだから、世の中の役に立ちたいと養子縁組をする決意をする。
彼らの元にやって来たのは、まだ14歳の少女が産んだ男の赤ちゃんだった。片倉ひかりというその少女と面会した佐都子は、彼女の手をしっかりと握って子供をしっかりと育てることを誓う。その子供に佐都子は朝斗と名付ける。
そして時間は流れ、現在に行き着く。怪我をした子供とも仲直りをし、幸せな生活を送る栗原家に突如一通の電話がかかってくる。
相手は朝斗の生みの親であるひかりだった。彼女は子供を引き取りたい、それが駄目ならお金が欲しいと脅迫めいた内容の言葉を佐都子にかける。
佐都子と清和はひかりを部屋に招くが、現れたのは以前に出会ったひかりとは全く印象の違う女だった。
二人は貴方はひかりとは別人だと、毅然とした態度で相手の要望をはねのける。
やがて物語は中学生時代のひかりの姿を追っていく。初めての淡い恋を経験して、これが永遠の関係になると信じて疑わないひかり。
周りの目から見れば巧とひかりの恋愛はあまりにも浅はかなものと映るかもしれない。しかし、彼らがお互いを純粋な気持ちで愛していたことに間違いはない。
画面いっぱいに光で溢れた巧とひかりの愛し合うシーンはとても美しい。
それは子供を諦めた清和と佐都子がセルフィーで写真を撮る時に、手元は写らないのにしっかりと手を握り合っている姿を美しいと感じたのと同じような感覚だ。
妊娠を告げられた時に、ひかりよりも母親の方がショックで泣き崩れてしまったのが印象的だった。もはや堕胎することも出来ないほどにお腹の中で成長してしまった赤ん坊。
ひかりの両親はベビーバトンの存在を知り、出産するまで広島にある施設に受け入れてもらえるように手配をする。
もちろん娘のことを考えて赤ん坊を養子縁組に出すのは現実的な判断だ。
しかし彼らにとっては娘のことよりも、世間体の方が大事だったことが後々に分かる。一生を台無しにしたいのかと父親はひかりを説得するが、その後のひかりの歩む道を考えれば、必ずしも彼の選択は正しかったとは言えない。
結局ひかりの両親は自分の子供の責任を負うことが出来なかったのだと思う。そしてひかりの味方になることもなかった。
家を飛び出したひかりは、誰にも心のうちを相談出来ないまま問題をひとりで抱える人間になってしまう。
栗原家を訪ねて来たのは、紛れもないすっかり面立ちの変わってしまったひかりだったのだ。
最初は片方の側しか見えなかったが、子供を育てる側と、育てられなかった側の両方の事情が分かってくると、今までとは全く違う世界が見えてきた。
広島の施設で出産を待つ女性たちの姿に色々と考えさせられるものがあった。結局男の身勝手さの代償を払わされるのは女性なのだ。
ひかりの人生を狂わせてしまったのは巧の迂闊さなのだが、佐都子に自分の子供を諦めさせることになってしまったのも清和の体の問題だというのが、何だか皮肉に感じた。
人は色々な事情を抱えて生きている。片方の側面だけを見て、その人のことを単純に決めつけてはいけないとも思った。
ドキュメンタリータッチの演出に好感が持てたのと、これほどまでに人に寄り添う優しい作品はないんじゃないかと思えるほどに感動した。
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