月うさぎ

カセットテープ・ダイアリーズの月うさぎのレビュー・感想・評価

3.6
ブルース・スプリングスティーンの歌とリンクしながら物語が語られていくROCKな青春映画。1987年のイギリスが舞台です。
普遍的であると同時に移民差別という社会問題も提起しています。
ジャベドはパキスタン系移民の子としてイギリスで生まれ育ちます。ルートンという片田舎の街。権威的な父と何もない閉鎖的な街から脱出し、詩人になるのが夢。
そんな彼がやはり移民のムスリム(シーク教徒?)の友から1本のカセットテープを借りて聴いたのがブルース・スプリングスティーン。
彼の音楽のメッセージはジャベドの人生を激変させたのでした♪

原題はBLINDED BY THE LIGHT
ブルースの初期の曲の名前
「光で目もくらみ」…意味深です
ブルースの歌詞に感化され広い世界に飛び立つ夢を膨らませるジャベド。
視野が広がれば親の価値観との対立も深まるのは当然の流れですが、大人になるということは、自分以外の価値観にも人の思いへの理解も深まるということ。
家族愛が結局はテーマですね。

最初は男尊女卑の文化の中、ただ耐えるしかない気の毒な女性に思えた母の存在がどんどん光ってきて、夫を嗜めるシーンの迫力には感動しました。母は強し!

映画「ボヘミアン・ラプソディ」の中でフレディがパキ野郎と悪態をつかれているシーンがありましたが(パキスタン系じゃないのに)、こちらは本当にパキスタン移民
イギリス社会の中で数も多く目立つ存在になっていて、ムスリムの生活様式も異様に感じられていたのでしょう。暮らしむきの良いパキスタン家族が酷い嫌がらせを受けたり、国粋主義者組織"国民戦線“による暴動が起きたり、かなり不穏な空気が蔓延していました。
移民問題とは人種差別とはこういうことか…
この問題は現代イギリスにおいても主要な社会問題のひとつです。背景には英国の経済的苦境が存在します。

映画は実話で、エンドロールにご本人が登場しますよ。ジャーナリストとしてキャリアを積みブルース・スプリングスティーンのライブにも行ける限り全部行き、自伝小説を出版。ご自身の人生をしっかり歩まれている方ですね。

なので、超ドラマチックな展開の爽快ストーリーではないです。
家を捨て街から出よう!がコンセプトではないのですね。だから光で目もくらみなのか…

ジャベドが音楽を聴くのに使っているのがSONYのウォークマンなのね。
それだけで時代がわかる〜面白い
月うさぎ

月うさぎ