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Winnyのnetfilmsのレビュー・感想・評価

Winny(2023年製作の映画)
3.9
 メディアに出たがらず、自分が主役になるような人生はゴメンだと思う金子勇さんは天国でこの映画を観てどう思うのか?2002年、開発者・金子勇(東出昌大)は、簡単にファイルを共有できる革新的なソフト“Winny”を開発、試用版を“2ちゃんねる”に公開する。P2Pと言われるその画期的なシステムは、ネットワークに接続された端末間が、サーバーを介さずに接続・通信出来るという画期的な方式という。彗星のごとく現れた“Winny”は、本人同士が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で大量の映画やゲーム、音楽などが違法にアップロードされ、ダウンロードする若者も続出したことから、次第に社会問題化していく。違法コピーした者たちが次々と逮捕される中、開発者の金子も著作権法違反幇助の容疑により、2004年に逮捕されてしまう。サイバー犯罪に詳しい弁護士・壇俊光(三浦貴大)は、“開発者が逮捕されたら弁護します”と語っていた矢先、金子逮捕の報道を受けて急遽、弁護を引き受けることになり、弁護団を結成する。

 “Winny”裁判は当時話題になっていたので多少は知ってはいたものの、この事件が最高裁で無罪になった事実は失礼ながら何も知らなかった。当時のメディアもこの件に関しては盛んに報道しなかったのではないか?天才プログラマーが作り出した画期的なシステムが元で、国家権力が右往左往する様子はひたすら痛快だが、純粋だった彼の元へいきなり京都府警ハイテク犯罪対策室のメンバーが押し入った際にはどれだけの恐怖を感じたのだろうか?東京大学の特任助手として恵まれた地位にありながら、彼がプログラムした画期的なシステムはある1つの脆弱性を突破され、ウィルスを介した地獄絵図へと形を変える。それにより人生が一変した人もいるだろう。それはシステムの創始者である彼の問題なのか?それともシステムを悪用した第三者の問題なのだろうか?壇俊光は最初から創始者を叩かんとする司法に疑問を示す。

 金子勇という人はどう見ても悪い人物ではないし、捜査に協力しようと警察に騙される形で無理な自白や宣誓をしてしまう。ある意味無邪気な人間なのだ。興味ないことにはまるで関心を示さず、興味のツボに入った瞬間だけ饒舌になる。最初は金子を訝しく思った壇弁護士も金子の姿に徐々に態度を軟化させていく。映画は公文書偽造を告発する仙波敏郎(吉岡秀隆)を遠目から差し込みながら、司法や警察の正しさをシリアスなドラマの中に炙り出さんとする。途中まではこれは単なる再現ビデオの域を出ないと思ったものの、東出昌大の朴訥とした佇まいと金子チームがじりじりと苦悩する裁判シーンに松本優作監督の本気が垣間見える。金子勇という人物の人生はこの1件で悲劇的にも大きく歯車が狂った。10年早ければテクノロジーが追いつかぬせいで検証も何も出来なかったろうし、10年後に作られれば逆にありふれた技術として話題にも上がらなかったはずだ。善悪の彼岸で揺れる主人公はいつだって無邪気な目をしているのが印象的だ。それは我々と何の変哲もない社会から疎外される者の悲劇とも言えるのではないか。
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