茉恭

パヴァロッティ 太陽のテノールの茉恭のレビュー・感想・評価

4.5
神に与えられし才能とは、容姿や声や音楽センスだけに在らず、
その環境がほとんどだといつも思う。
たとえばビヨンセが貧困家族の中で生まれていたら、
たとえばメッシがサッカーとは無縁の環境で育っていたら。

ルチアーノもまた、親に恵まれた。
背中を全力で押してくれる仲間に恵まれた。
だから彼は太陽でいられた。
そう確信したドキュメンタリー作品だった。

今回、大好きなロン・ハワードが監督をやるということで、
どんなことになるのか相当ワクワクしていたけれど、
なんと彼の得意な美しい映像はほとんどなく、
ルチアーノの歌=美しさに焦点を絞り切った作品となった気がする。

そうさ、美しさを語る時、余計なものは一切要らない。

そんなコメントが聞こえてきそう。
そして殆どの方が彼の十八番「だれも寝てはならぬ」の部分や、
三大テノールの映像を評価していたけれど、
私は彼の最後の舞台に一番心を揺さぶられた。

年老いて、高音も出なくなり、声に張りもなくなったと誰もが酷評した後の、
あの圧巻の歌唱力と表現力は言葉では言い尽くせない。
日々、老いるという恐怖に怯えながらも、
自分自身を信じ切って到達した、まさにあそこが頂点なんだと感じさせられた。

私もたったひとつの優れた才能と恵まれた環境で、
重圧に耐えながら慈善事業して朽ちていきたかった。

さようならルーチェ(伊語で光)。
もう一回ドルアトで観に行こうと思う作品。
茉恭

茉恭