レインウォッチャー

宝島のレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

宝島(2018年製作の映画)
4.0
休暇(バカンス)を美しくするために、必要なものは何だろう。
色々と思いつくけれど、一番はきっと「いつか終わること」ではないだろうか。

時がもたらす平等な有限性が、見慣れてしまえば何てことはない風景や、すれ違った誰かのちょっとした仕草を特別にする。過ぎ去る光を捕まえようと焦っているうちに、気づけば終わりは近づいて、記憶は装飾されて引き出しにしまわれる。
それはある意味で脳の防衛本能のようなものであり、ヒトが何万年もかけて獲得したからっぽの(だからこそ素晴らしい)叡智のひとつだ。

パリの郊外に位置するセルジー・ポントワーズ、ここのレジャーランドでもまた、「終わり」を閉じ込めている。
夏のバカンスのために訪れる多くの人々。子供、家族連れ、若い盛りの男女、老人。客、施設のスタッフ。地元民、移民。あらゆる人々がいて、彼らは思い思いに過ごす。

園内には人工ビーチや橋、湖(※1)、緑があるけれど、所謂レジャー施設というよりは大きな公園といったほうが近いかもしれない。特段何かを強いることなく、ただバカンスという空間を提供しているような佇まいの場所だ。忍び込もうとするガキもいれば、ナンパに精を出す野郎もいる。

カメラは、空中を漂う精霊のような透明さで場に溶け込んで、人々を映してゆく。ここに既に魔法の気配を感じるところではあるけれど、G・ブラック監督曰くは100%のドキュメンタリーというわけではないらしい(※2)。中には、その場で演出したり、起こったことを再現してもらったり、といった映像もあるそうだ。

ただ、このドキュメンタリーとフィクション、リアルとファンタジーの境目の融解こそが、今作に真の魔法をかけているように思う。その行為は想い出を無意識に美化してしまうことと似て、白昼夢の感覚を強める。まるでわたしもこの場に「居た」かのように。奇跡としか思えないスナップの数々。

一方、すべてがのんびりと穏やかなだけではない。和やかに過ごす人の口から、時には思いもよらないほど重く・暗い過去の話が漏れ出す。また、閉演後に迫る夕闇には誰もが《死》の影を感じるだろう。

この場所では、開園から閉演までの間で小さな生死のサイクルが繰り返されているのだ、ということに気付く。「終わりがあるから美しい」、それは短いにしろ長いにしろわたしたちの人生と同じであり…そしてもちろん、《映画》もまたそうだ。

ようやく長引いた夏がゆるもうとしているここ数日ではあるけれど、最後に如何でしょう、「行ってないバカンス」の記憶を想い出に滑り込ませてみるというのは。

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※1:湖にあるピラミッド型のオブジェ、たぶんセリーヌ・シアマ監督作『秘密の森の、その向こう』でも訪れてた場所だ。

※2:http://www.outsideintokyo.jp/j/interview/guillaumebrac/index2.html