高橋明が谷ナオミを性奴隷として調教していく、ここまでの映画ならいくらでもあるが、加藤彰はその先を描く。その二人の異常な関係が成立したあとに残るのは虚無、喜びや苦しみ、悦楽はない、まだ見ぬ地平の向こう側にあったのは空寂。犯され、首吊り自殺をした少女にたいしても既になんの痛みも感じない、残るのは絶望と無関心。ラスト、燃える車内で生き返る谷ナオミを見てしまった高橋明が、そこで我に返る。谷ナオミが感情を持つ人間だったのだとようやく気がつく、愛していた女への捻れた行為の果てがこの海岸で、俺はその女を殺し燃やしているのだと。男は正気を取り戻し、そして完全に狂う。腑に落ちるような答え合わせの映画ではない。淋しい男はキチガイになり女は生きながら燃やされる。それだけ。物語の輪を閉じない、ただ映画のなか放り出される人物を私たちはスクリーンの外から眺めることしかできない。孤高の作家、これが加藤彰の「映画」。傑作。