DJあおやま

音楽のDJあおやまのレビュー・感想・評価

音楽(2019年製作の映画)
4.3
鑑賞して数日経つが、なかなか文章がまとまらず。稚拙な言葉を並べて感想を書いて、この感動を矮小なものに収めたくなかった。しかし、結局まとまらないまま。良い映画を観るたびに、受けた感動を100%文章に表せないことに苦悩をおぼえる。
7年かけて40,000枚以上の作画を手描きで描かれた、愛やら狂気やら執念やらを感じる作品。出来上がった71分間の映像には無駄ものが何も映っていなかった。上映時間も作画もミニマルだからこそ、鳴り響く音やそこから生まれる衝動が鮮烈に感じた。
ほとんど楽器に触れたことのない人生だったけど、音楽には大袈裟なくらいの希望や幻想を抱いてしまう。クライマックスのフェスシーンも印象的だけど、なによりあのケンジの部屋で初めてかき鳴らしたあの音がずんと胸に響いた。せーの、ですべてが始まって、すべてが変わったような鮮烈さ。初めて自らで音を鳴らす、それだけで感動してしまう。その感動を描くのに、仰々しい演出や言葉など必要ない。
実際の人の動きをトレースして描かれる“ロトスコープ”という技法が使用された映像も素晴らしく、生々しい人間の動きに迫力を感じ、また、簡素な作画とのギャップからか実にドラマチックに映った。
映像からはずっと好きな雰囲気が漂っていた。冒頭のオートレストランのシーンからもう心は鷲掴み。こんな平凡なシーンだけで3時間くらい観ていたいくらい。全体的にシュールで静けさを感じた。観ているこちらが不安になるくらい、贅沢に使った“間”も印象的だ。
主人公を演じる坂本慎太郎の高校生に似つかわしくない低い声や、太田役を演じる前野朋哉の優しさの滲み出る声など、聞こえてくる声まで美しい。目に映るもの、聞こえる音、そのどれもが好きだった。
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