鴨橋立

猿楽町で会いましょうの鴨橋立のネタバレレビュー・内容・結末

猿楽町で会いましょう(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

口コミも予告もあらすじも見ずに鑑賞。

ビックリした。

最初の30分くらいで劇場から出たいという思いを我慢して本当に良かった(いや、もちろん今まで一度も途中退場なんかしたことないけど)。

これめちゃくちゃ怖い話じゃん。

最後のどう足掻いても言い逃れできない嘘とか完全に狂気。

承認欲求と自己顕示欲という現代の病理とそれを利用した社会の構造の闇(言い換えれば一部の持ってる者に都合よく使われる持たざる者)みたいな、

そういった過程を経て作られてしまった空虚な存在、まるで精巧に作られた人形に抱くような恐怖をユカのラストカットからは感じた。

きっと東京には何人ものユカがいるんだろう、ふと顔が思い浮かぶ人もいる。

搾取の構造が生まれる背景にはそもそも人の闇があって、それは「他人と同じで良い」から「他人と違って良い」、そこから「他人と違う何者かにならなければいけない」という個性の尊重から生まれてしまった凡庸さの否定でもあるわけで、

結局人間はつめ込もうがゆとりを持とうが病んじゃうんだな。

最初のほうの若いシティ派カップルのイチャイチャなんておじさん観たくないよ、という感想からははるかに離れた位置に着地する構造、素晴らしいの一言に尽きる。

映画を観ていて思ったことがその映画が終わるまでにどんどん塗り替えられていく感覚、こうやって揺さぶられる映画をよくできた映画って言いたい。

ユカ役の石川瑠香さん、ところどころ感情と感情の間が抜けてて決して上手いとは言えないんだけどやっぱり存在感、実在感、脱ぎっぷりが素晴らしい。

なんかで見た顔だなと思ったら超低クオリティ映画「イソップの思う壺」の主演の子じゃないか!お兄ちゃん役の髙橋雄祐は主演もやった傑作短編撮るし役者は悪くなかったんだな、きっと。

パンフの狗飼恭子さんの文章、「これはファムファタル映画ではない」というタイトルで、いやそもそもこの映画観てユカのことをファムファタルだなんて思うやついるのか?という疑問もあるが、ユカ以外の登場人物全員が強者でユカだけが弱者なんだという見方は面白かった。

自分が映画を観ていた時に思った「持っている者」の中に含まれていたのはユカ以外の全員ではなかったから。

持たざる者ですら強者たりえるとも思ったし、真実を知る前の恋心を寄せる優一君の前ではユカですら強者だったことも忘れられない。そうやってパワーゲームの中で人は傷つけ合う。

こんな映画観たんだからせめて傷つけられても傷つけない人間でいられるように努力しなければ。。

今作が予告編のコンテストから作られたという事を知り家に帰り予告編を鑑賞。

なるほどこの予告を見ると狗飼恭子さんがユカをファムファタル(ではない)と前提したのもなんとなくわかる気はする。
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