KnightsofOdessa

スターフィッシュのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

スターフィッシュ(2018年製作の映画)
5.0
[君が死んだ日、世界は終わった] 100点

圧倒的大傑作。A.T.ホワイトの初監督作である本作品は、ポストアポカリプスものにしては実に奇妙な展開を辿る。親友だが今は疎遠のグレースが亡くなり、その葬儀にやってきたオーブリーが主人公となる。彼女は大晦日の街を眺めながら、グレースのマンションに流れ着き、そこで彼女の影を感じながら一夜を明かす。するとどうだろう、当たり一面雪景色…なのは良いとして、街には人っ子一人いないのだ。驚いて外に出るオーブリーを襲うのは、ヴェノムとリッカーを足して二で割ったような謎の生命体。そして、無線からは彼女のサポートを申し出る謎の男の声。さあ、世界を救うバトルの始まりだ…とはならない。"人の居ない世界って私の求めてたものじゃん"とあっさり男の誘いを断ってグレースの家に引きこもる。

ポストアポカリプス系SFホラーのジャンル映画的な枠組を持ちながら、クリシェをかなぐり捨てた本作品は、親友を失って自暴自棄になる女性の内的宇宙に潜り込み続ける。グレースが飼っていたカメに話しかけながら、食料が尽きるまで家に籠もり続け、日に日にやせ細っていくオーブリーの姿は、彼女の部屋にいるという事実からも明白に示されている通り、グレースとの想い出に囚われた状態を示している。その後、資源が尽きた彼女は、想い出の地にカセットテープを残したというグレースの言葉に従って、外の世界へと足を踏み出す。この時代にカセットテープ?!と思うかもしれないが、完全に"想い出"そのものへのメタファーであり、それらを集めて"再生"することこそ、オーブリーの人生を"再び始める"ことに繋げさせる。

崩壊へ向かう終末世界がオーブリーの心象風景なら、進む先々でオーブリーの前に現れる"怪物"は、他人と見るべきだろう。グレースに関して後ろ暗い過去を持つオーブリーは、赤の他人でさえ自分に対して攻撃的であると勘違いする。それに対して、グレースの残したテープでは"怪物への立ち向かい方を教える"というものであり、彼女は既にオーブリーを許していることが伺える。そして、オーブリーは心の中にいるグレースの力を借りながら、少しずつ前進していく。

本作品は終末世界という舞台を借りた自己セラピーのような作品といえるだろう。つまり、『アド・アストラ』と『ミッドサマー』を一度に楽しめるわけだ。低予算ゆえの自由すぎる発想から、ジャンル映画を解体して別のものに再構築した本作品は、その枠組に埋没することなく、ホワイト本人に、引いては最後の一言を言えずに永遠の別れを迎えてしまった全ての人々に、ある種の救いを提示した。自分を許して、幸福だけをいつまでも覚えていることこそが、故人への最大の"想い"であると。
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