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T-34 レジェンド・オブ・ウォーのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

4.3

このレビューはネタバレを含みます

第二次世界大戦下、戦いに敗れたナチス・ドイツの捕虜となったソ連士官イヴシュキンは、演習の「敵役」に選ばれてしまい、ソ連最強戦車T-34の指揮を命じられる。捕虜仲間を集めて準備を進めるが、実弾は与えられず、死の出撃を待つだけ。そんな運命を逆手に取った彼らは、極秘の脱出計画を実行に移す!

遂にロシア産のエンタメ映画もここまで来たか!
ソ連軍とドイツ軍の戦車が壮絶な闘いを繰り広げる、興奮の戦争アクションの傑作。
頼りになる主人公と忠実な部下、そのライバルの軍人として有能な悪役、悲しみを湛えた紅一点のヒロイン、魅力的なキャラクターたちのドラマに、泥臭くスポーツ感覚溢れる迫力の戦闘シーンが絡み合う。
起承転結がハッキリした脚本も良い。

冒頭、主人公イヴシュキンが武器を搭載しない炊事用トラックで、ドイツ軍戦車の砲撃をかわして逃げ切る。
彼の戦略能力の高さが分かる手際のよいツカミだ。
イヴシュキンの戦略能力の高さが提示されることで、ドイツ軍への抵抗に対する期待が高まる。

友軍撤退の支援へと向かったイヴシュキンのT-34は次々とドイツ軍の戦車中隊を撃破していくが、隊を率いるクラウス・イェーガー大佐の戦車と激突。
開始早々、木造の家々をブチ抜き、柵を薙ぎ倒して進む怪獣映画のような戦車アクションの豪快さに魅了される。
イヴシュキンの的確な指揮もさることながら、乗員たちが卓越した連携で戦車を操る描写が素晴らしい。
そして、大砲が一発当たれば、一瞬にして鉄の棺桶となる恐怖は、まるで「潜水艦モノ」のようなスリルだ。
死闘の末、相打ちになったイヴシュキンらは捕らえられて捕虜となる。

収容所に現れた宿敵イェーガー大佐がイヴシュキンを見つけ、戦車に乗り、軍事演習の的になれと命令。
断れば通訳の女性アーニャを殺すと脅されて承諾するのだが、見も知らぬ女性を助け、無理難題を引き受ける主人公にヒーロー性が宿る。

同じく捕虜にされていた部下を仲間に入れ、整備と収容所からの脱出計画進めていく。
「白鳥の湖」に合わせた軽やかなテスト運転が乗員の鈍らぬ腕の確かさを物語る。
だが、攻撃力を奪われたT-34で、ドイツ軍のパンター戦車相手に彼がどう立ち向かうのか? 再び期待も高まる。

演習の最中に煙幕を張り、ドイツ軍の指令本部に隠し持っていた砲弾を発射。
慌てふためくドイツ軍の混乱に乗じて、演習所から脱走に成功する姿はとても痛快。

しかし、失態に引き下がるドイツ軍ではない。
宿敵イェーガー大佐が追跡し、包囲網を狭めていく。
クライマックスは人払いした市街地での大戦車バトルが展開。
狭い路地や見通しの悪い曲がり道を利用した戦略と、至近距離での大砲の撃ち合いは迫力満点。
T-34の機動力を最大限に利用して、数と弾薬で勝るドイツ軍戦車と互角以上に渡り合うイヴシュキンたちの活躍には思わず声援を送りたくなる。
戦車同士が橋の上で、正面切って突っ込むラストの一騎打ちは、実にスポーツライク。
戦いに敗れ、橋から落ちそうになるイェーガー大佐をイヴシュキンが救おうとする。
硬い握手で一瞬引き摺りこむかと思った時、ライバルを讃える微笑みを浮かべて手を離し、自ら谷底に消えていくイェーガー。
敵ながら天晴れな最後!とても粋でニクイ演出だ。
見事、ドイツ軍の包囲網から脱出した主人公たちは、草原で戦闘を避けたアーニャと再会するハッピーエンド。

イヴシュキンたちに武器弾薬を与えない不利な状況からの奇跡の逆転、更にそこからの華麗な脱走に至る興奮の展開が素晴らしい。
戦車の砲塔から発射された砲弾が、相手の戦車の装甲にどう着弾し、また戦車内部にどのような被害をもたらすのか?
派手な爆破や破壊にCGが効果的に使われている。
狭い戦車内に着弾の衝撃が伝わると、乗組員の耳が聞こえなくなったり、気絶や嘔吐する様は、自分も戦車に乗っているような臨場感だ。
惜しむらくは、少々漫画的な都合の良さを感じる展開なのだが、恐らくそれは戦争映画では定番の収容所での悲惨な捕虜生活が描かれず、ドン底から反逆や反戦のメッセージを弱く感じるせいかもしれない。
3時間を超えるディレクターズカットが存在するようだが、収容所のシーンもラストシーン以降のその後も描かれているに違いない。
だが、本作のテンポが良く一切の無駄が無い演出と編集は素晴らしい。

しかし、捕虜の悲惨さを訴えたり、傲慢なドイツ軍の非情さを訴える戦争映画は多いが、捕虜がドイツ軍に勝利してしまう痛快さはなかなかない!
タルコフスキー監督やパラジャーノフ監督などからロシア映画には文学的で難解な印象があった。
本作はロシア発の世界に誇れるエンタメ映画だ。
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