アニメシリーズの放映10周年を記念し、歴代主人公がクロスオーバーする劇☆場☆版。累計販売枚数世界一のトレーディングカードゲームとなった“YU-GI-OH!”。ならば、遊戯王OCG(TCG)はきちんとゲームバランスが考慮された知育玩具なのか?というと、ぜんぜんそんなことはない。
遊戯王はその長い歴史のなかで、ワンキル、ロック、ライブラリアウト、全ハンデス、特殊勝利、盤面征圧、無限ループ、無限バーン等々…華麗なる即死コンボから圧倒的な物量による圧殺まで、様々な理不尽ゲーが横行してきた他に類を見ない殺意に満ち溢れた闇のゲームなのである。環境と呼ばれるようなデッキを相手に1ターンでも二の足を踏んだら手が付けられなくなること烈火の如し。新カードが発売される度に凶悪な組合わせによるコンボが開発されてしまうのもご愛嬌。ルール整備など意味をなさぬ無法地帯。初手に打消しを握っていない方が悪いとまで言わしめる不条理性。先攻後攻を決めるじゃんけんに負けた次の瞬間…闇のフィールに満ちた殺伐とした光景が眼前に広がっているのだ。それが遊戯王である。
今も続いているアニメシリーズもかなりイッちゃってて、夕方に子供がみるものにしてはビックリするような表現が多いが、「オモチャの販促アニメですから」という隠れ蓑のもとに治外法権的に悪ノリを続けてきた。この『遊戯王5D's』はその極地である。
何はともあれファンムービーであるため、テレビシリーズはみていることが前提。はじめてみる人は、当然のようにバイクに乗ってカードゲームする様子に面食らうかもしれないが、本編ではバイクと合体したりバイクと同等の速度で疾走するキャラクターが登場しているので、この程度で驚いてはいけない。ゲームに負けると死亡、爆発、消滅、クラッシュは基本教養。さらにテレビアニメのストーリーとリンクしているため、イリアステル滅四星のバックトゥザフューチャーな目的など本編の流れを知っていた方が分かりやすいと思われる。
そんなわけで歴代主人公が集結し案の定“闇のデュエル”がスタート!手札事故の王様!ガン伏せの十代!ソリティアしたい遊星!ロンブー淳!どうなる!!
先輩方を「遊戯さん」「十代さん」と“さん”付けで呼ぶ遊星は真の決闘者。パイセンには敬語を使うべきだとゆとり世代に教えてくれる教育映画であり、短い時間で過去キャラとのクロスオーバー企画として各主人公の魅力をしっかりと引き立てた理想的ムービー対戦だったと思う。
二次元アニメにはじめて3D効果を取り入れた作品なので、2Dで観るとドローの時の遠近法が面白いことになっているのも見所。
各主人公のターンに流れるBGMも最高のファンサービスだ。遊戯が「スターダスト・ドラゴン」を取り返して、十代の「クリボーを呼ぶ笛」によって遊戯がデッキから手札に加えた「クリボー」の効果を発動し、新シリーズの主人公である遊星にバトンを繋げる場面が熱い。あと説明役に回るユベルかわいい。
相手役パラドックス氏をロンブー淳が好演しているが、彼がいくら強キャラでも、一対一で遊ぶことを前提にデザインされているゲームで鬼ドロー運を持つ主人公×3を一人で相手にするのは自殺行為。そして、不動遊星という男はクラッシュタウン(現サティスファクションタウン)にてワンターンスリーキルを成し遂げたことで名の知れたハリキリボーイ。「カードは拾った」「不必要なカードなど存在しない」などと言いながら、デッキに採用するのは実用性重視のリアリストである。ロットンのようにハンディキャップマッチを提案しなければ勝ち目などない。
パラドックスの使用する“罪深きモンスター”Sinシリーズは現実のカードでもかなり強力で、フィールド魔法を主軸とする現環境のテーマデッキともなかなかシナジーが噛み合っており、罠カード「スキルドレイン」と組み合わせることで相手の足を引っ張りつつ自身が自壊するデメリットを打ち消せる。デザイナーズテーマの相乗効果によって連鎖的にコンボを繋げていくのが主軸の時代だからといって、単体で高打点を持つモンスターもバカに出来ない。デカブツを出してビートダウンするだけの単純な戦術は今でも有効だ。EXデッキに依存もしないためまだまだ可能性を秘めた強カテゴリーである。