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犬王のsomaddesignのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
5.0
「どろろ」+「ピンポン」+「ボヘミアン・ラプソディ」

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南北朝時代。京の都・近江猿楽の比叡座の家に、ある夜1人の子どもが誕生した。その姿はあまりに奇怪で、大人たちは犬王の全身を衣服で包み、顔には面を被せた。ある日、犬王は盲目の琵琶法師の少年・友魚(ともな)と出会う。互いの才能を開花させてヒット曲を連発。舞台で観客を魅了するようになった犬王は、演じるたびに身体の一部を解き、唯一無二の美を獲得していく。

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湯浅政明監督のファンなので、どうしても贔屓目で見てしまうけど、過去イチ敷居の高い作品で、ちゃんと飲み込むまでに幾重にもハードルがある。好き嫌いハッキリ別れる作品かもしれない。

アニメ「ピンポン」のタッグ再び。松本大洋のキャラデザインを、天才・湯浅政明監督が動かす。毎回新しいアニメ表現にチャレンジして、見たことないエンタメに昇華するのがすごい。まして初めての時代劇だし、資料の少ない室町初期ってハードルの高さに挑んでる。

古川日出男の原作を元に、脚本に「アイアムアヒーロー」「重版出来!」「逃げ恥」の野木亜紀子。音楽は「潮騒のメモリー」「花束みたいな恋をした」大友良英。豪華布陣で作り上げられた一大ロックミュージカルアニメ。古川日出男原作のアニメといえば今年(2022年)の春アニメ「平家物語」が記憶に新しく、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も併せて、なんだかやたらと平家物語づいてる年だ。

歌唱シーンに字幕欲しい。(…と思っていたら、字幕付き上映が始まってたので、慌てて見に行った)。 とはいえ、字幕があったところで平家物語のどの場面が分からないと、犬王が何を演じどう新解釈しているのか分からないので、原作か解説本を読んでないとついていけない部分も。(最低でも壇ノ浦や一ノ谷くらいは事前に予習が必要だと思われる)
とりあえず劇中演じてた「重盛」「腕塚」「鯨」「竜中将」の4つについて、復習用にこちらのサイトを参考にさせて頂きました。とても分かりやすい。
https://kuragewahidarikiki.com/inuou-2/3164/

犬王という人は実在したことだけは世阿弥の「風姿花伝」にちょこっと触れられるだけで、どんな人物でどんな人だったか分からない。(犬王の能を見た人が「すげえ!」「やべえ!」って書き残したものは沢山あるらしい)

「日本最古のラップ」とも称される平家物語だけあって、音と韻の気持ちよさ。
リズムに合わせて散っていった魂を沈めると共に、歴史の裏に隠されてしまったさまざまな物語を拾い上げることで、主人公二人もまた救いを求めるバディもの。二人もまた「自分が自分であることを誇る©︎K DUB SHINE」べく、自ら名乗り自分の人生を模索していく青春立志伝として熱い。

犬王の人生自体が「平家物語」のような、盛者必衰・諸行無常を体現してるよう。大人気で一時代を築いたように思えても、全ては束の間の夢。泡のように消えてしまう儚さを思ってしまう。それでも継がれ続いていく文化や、長い目で見れば刹那に近いが、その瞬間は永遠にも思える繋がりについての作品なのかも。


犬王自身に恨みつらみが全くなくて、置かれてる境遇についてなんの不満も言わない。カラッとした性格なのが面白い🤣 いつも明るくてグイグイ周囲を引っ張るヒーロー感がどことなく「ピンポン」のペコに似てる気がする。
猿楽を始める前の「犬王が作!」て自信満々に名乗りあげるのが好き。犬王の猿楽が挑発的なのに恨みがないので、表現を通じて誰かをやっつけようとしない。これまでの不遇を見返そうとしないのも良かった。
友魚のあおりも不遇への反発ってより「絶対面白いから見逃しちゃ損々」のノリで、二人の反骨精神がどこまでも爽やかなのが物語の救い。

犬王はアブちゃん以外に演じられる人がいないハマり役で、キャスティングに失敗してたらどうしてたのか。(アブちゃんと森山未來のキャストは決まっていたもののどっちがどの役か決めきれないので、いっそのことキャラを各々に寄せて当て書きに近い感じなったとか)

文句をつけるなら、犬王の素顔は少なくとも映画の観客に見せなくてもよかったような…(新しい仮面をつけ始めたという見方もできるが)。
あと、クライマックスで伏線が回収される気持ちよさの反面、犬王の父の処理されっぷりが雑に感じちゃった。


余談)
今作の制作中にサイエンスSARUを離れた湯浅監督。近年の大忙しっぷりもあってか、しばらくお休み期間に入られるそう。復帰が待ち遠しいのが本心だけど、ゆっくり心穏やかな日々を送られることを願ってやまない。

42・44本目
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