このレビューはネタバレを含みます
黒澤明が巨匠だと言われる所以がよくわかった。演出っていまいちピンときてなかったけど、こういうことなんだ。圧巻だ。
レントゲン写真のスタート斬新。
背景が緻密に意味を持って作られていて、セリフや役者との相乗効果で多くの情報を得ることができる。見てる方が物語の余白を想像することができる。
例えば、出番一発目で主人公の仕事内容やその仕事に対する姿勢など。
主人公の気持ちが生まれ変わる時に流れる、他人を祝うハッピーバースデーの曲。間接的に主人公の生まれ変わりを祝している。
小道具が持つ意味や、その小道具から想起させられる思い出。まっすぐ進むことしかできないおもちゃのウサギや、息子の野球バッドなど。
主人公以外の役者がどんな表情や動きをするかによって、主人公の言動が物語の世界から見てどう言った発言なのかをより表現することができる。
主人公→お願いをする
相手→嫌そうな顔をする
主人公の後ろにいる人→発言に驚いてお願いの発言を止めようとする
観客→このお願いは相当無理なお願いなんだ
脇役はある意味、観客を引き込む役割なのかも。葛藤する主人公に一般論を投げかけてきたりするしね。
あと、絵の中で物語を動かす人物に注目させるのが上手い。ピントの焦点や、画面の中心に持ってくるとか、顔がカメラに向いているとか。
全員がワイワイ動いてる中で、反対意見の人だけ微動だにしないことで、観客がその人物を頭の片隅で注目することができる&その人は大衆に同調していないことがわかる。
お葬式のシーンで参列した人がエピソードをそれぞれ語ることによって、主人公のさまざまな面を自然に見ることができた。
ラストであんなに意気込んでいた人は何も変わらずに淡々といつもの日常を送り出すことで、主人公の生前並々ならぬ決意が強調されていたし、その努力の結晶である公園で遊ぶ子供達が映し出されることによって、彼のおかげで変わったものも表現されていて素晴らしかった。
「わしに人を憎んでる暇はない。わしにそんな暇はない。」
「ぽつりぽつりって雨垂れみたいに話さないでよ