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生きるのsayuriasamaのレビュー・感想・評価

生きる(1952年製作の映画)
4.8
しがないお役人が真の意味で人生の意味に目覚める過程

洋画ばかり見てますが、海外の巨匠は口をそろえて「クロサワ」と絶賛していることもあり、日本人なら見ておかなくては...と手にしてみました。

ストーリーはシンプルな方だと思います。余命いくばくもない市民課長の渡辺は人生に行き詰まり、夜の町をさまよいます。その後ばったり出会った元部下の若い女性の生き生きとした姿に一念発起、自分も懸命に「生み出す」ことに情熱を注ぐ...

テーマは「本当に生きるとは」古今東西問わず普遍的で、現代にも十分通じるものです。主人公の職場が「役所」っていうのもニクイですねえ。今も昔も面倒な仕事はたらい回し、選挙などパフォーマンスが必要になればここぞとアピールする、そんな空虚な仕事ぶり。(どこかで見たなあ)そこにどっぷり浸かっていたものの病をきっかけに一瞬でも理想に向かって力強く命を燃やして生きた渡辺の姿に涙なしには見られませんでした。

前半の歓楽街をふらつくシーン、真面目一徹おじさんには楽しいようでなんとなく居心地悪い。(この気持ち、分かる...遊んで忘れたくてもやっぱり慣れない繁華街からはすぐ退散するかんじ)
ただ、自分の元部下、小田切の健康的な美しさに一筋の光明を感じる渡辺。デート(?)を重ねていくうちに自分の病を受け入れ、生きた証を残すべく奔走します。
この映画、演出がいいアクセントになってますね。第3者のナレーション、ハッピバースデーの合唱、時間軸をずらした表現(葬式のシーンから回想になる)、自分の手を使い作るとよの「ぜんまいじがけのウサギさん」そしてラストのブランコのシーン...だらだらしがちなストーリーを工夫して見せてると思います。

そして渡辺の後をついだ役人は、やっぱり石頭の役人でしかない...
葬式のシーンでも公園設置の手柄を故人以外でたらい回し。その後ようやく渡辺の尽力の大切さに気がつきますが、新体制ではお役所仕事は健在。この通夜のシーンもリアルですね。

生物として生きることは簡単にできるけれど心から「生きる」ことは本当に難しい、そんな人生の苦さと奥深さを鮮やかに描いてます。

人生の節目に見返したい作品ですね。
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