SANKOU

EXITのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

EXIT(2019年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

公園の鉄棒でアクロバティックなトレーニングに励むヨンナム。警察か特殊部隊に所属しているのかと思えば、何と彼は無職だった。いつの間にか甥っ子からは煙たがられ、父と母にお節介な姉からも落第者として見られてしまう。
そんなうだつの上がらないヨンナムだが、彼は母の古希の誕生日のお祝いをするために、見栄を張って自宅からかなり遠くにあるホテルを会場に選ぶ。
韓国は日本よりも親族の結び付きが強いと感じるが、色々と面倒なことも多そうだ。
義理の兄たちがこぞって父や母に媚びを売る姿が滑稽だ。
そしてヨンナムは会場で山岳部にいた頃の後輩ウィジュと再会する。
山岳部にいた頃は輝いていた彼女も、ここでは副店長とは名ばかりの雑用に近い仕事をさせられている。
ついついヨンナムは自分はベンチャー企業に勤めていると嘘をついてしまうが、それはヨンナムが過去に彼女に告白してフラれたという経験があったからだ。
何となく気まずい空気になる二人。
親族はヨンナムが見ていて恥ずかしくなるほどに羽目をはずし、ウィジュは苦手な店長から愛の告白をされている。
皆は揃って「きっとうまく行く」とヨンナムを励ますが、その言葉にはあまり実がこもっていないように感じる。
そして唐突に事件は起こる。
ある人物によって毒ガスが撒かれ、町は大パニックに陥る。
徐々に上昇してくるガスから逃げ回るヨンナムたち。しかし屋上の扉は鍵がかかっている。
意を決してヨンナムは山岳部にいた頃の経験を活かし、命綱なしの決死のクライミングで屋上を目指す。
ここからはドキドキハラハラの連続で、観ているだけで手汗が止まらなくなった。
アクション映画としてはかなり臨場感があり、最後までノンストップで楽しめる作品だった。
そして高いビルにいる人間ほど助かるという韓国社会への皮肉が込められた作品でもあると思った。
犠牲になるのはいつも弱い立場にいる人間だ。
しかしホテルの店長や他の親族たちが全く役に立たない中で、落ちこぼれのヨンナムとウィジュだけが逆境を切り抜ける力を持っていた。
二人のコンビネーションがとても良かった。彼らは自分たちを犠牲にしてまで、周りの人間を助けようとする。その姿はとても勇敢でカッコいい。
しかし彼らは絶望的な状況を呪い、愚痴をこぼすし、分かりやすいほどに動揺するし、大声で喚くし、挙げ句には顔をぐちゃぐちゃにして泣き出してしまう。
その姿はとてもカッコ悪いが人間臭くもあり、だから観ている方はどんどん彼らに感情移入していく。
皆はきっとうまく行くと言っていたのに、状況は悪くなるばかりではないかと泣き崩れるヨンナムの姿がシリアスな状況に反しておかしかった。
そうは言っても絶望的な状況を二人は打開していく。
ドローンを飛ばして二人を応援するネットの視聴者たちの姿が印象的だったが、観ているこちら側も彼らと同じ目線で二人の行く末を見守っていることに気づく。
どんな困難があってもきっとうまく行く、そう勇気付けられる作品だった。
最後まではっきりと好意を口にしないウィジュだが、明らかに二人が恋仲に発展していくのを予感させるラストはとても良かった。
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