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キューブリックに愛された男のCinemanのレビュー・感想・評価

4.0
『キューブリックに愛された男』
アレックス・インファセリ監督
2018年公開 イタリア

鑑賞日 2023年6月11日 U-next 再見


スタンリー・キューブリック監督が大好きなんです。
ジャンルを問わず作品ごとに極め付きの映画に仕上げる力技も徹底的にこだわった映像も常に新しい技術をとり込んで挑戦する姿勢も何から何まで大好きだ。
新作を観るたびに「そのジャンルの極め付きの映画をぼくが創ったから」とキューブリックに宣言されているような気がする。
っで、
そのキューブリックに愛された男っていったい誰?

【Prologue】
才能溢れるレーシング・ドライバーとして将来を嘱望されていたエミリオ・ダレッサンドロはFIレーサーを夢見てロンドンに移住したイタリア系移民だ。しかしロンドンでもレーサーの仕事には恵まれずタクシーの運転手として家族と暮らしていた。

1970年のある雪の日。
エミリオは映画製作会社から得体の知れない大きな物体を撮影スタジオまで運んでほしいという仕事を受ける。
雪の降る悪天候の中、車に入りきれないほど大きな荷物を無事スタジオまで送り届けたエミリオに後日その映画会社から「我が社の代表が挨拶をしたい」と連絡が入った。
事務所に顔を出すと代表から「近くをドライブしよう」と誘われ一緒にドライブした。
これがキューブリックとエミリオの出会いだった。

レーサーとしての実績も下調べしてあったキューブリックは「自分の専属運転手として働いてもらいたい」と申し出た。
映画には興味がなくキューブリックのことも知らないエミリオだったが快諾して翌日から監督の自宅兼スタジオに通うことになった。

その日から30年間専属運転手として働いたエミリオと彼を信頼して様々な仕事を依頼するキューブリックとの友情を描いたドキュメンタリー作品です。

人当たりは良いがこと映画のことになると深夜であれ明け方であれ相手の事情などお構いなく電話やメモで仕事を言い渡すキューブリック。
頼まれた仕事が何であれすべて完璧にこなすエミリオ。
その働きぶりでキューブリックはますます重要な仕事をエミリオに頼むようになる。
お抱え運転手というレベルではなくなる。

神経質で完璧主義者のキューブリックの日々の仕事と生活。
広大なお屋敷の敷地に迷い込んだ捨て猫や捨て犬をすべて保護して里親探しまでするキューブリック。
巨匠の知られざる普段着の姿を、2人の熱い友情とともに描き出します。

監督の屋敷に一家ともども住まわされるほど全面的に信頼されたエミリオは淡々と仕事をこなし、
キューブリックはエミリオなしでは仕事にならないほどだった。
深い絆で結ばれて30年にもわたるキューブリックとの友情物語を本作品の監督アレックス・インファッセリにエミリオは淡々と語ります。

【Trivia & Topics】
✻エミリオが運転手として働き始めたその朝キューブリックの屋敷の中庭に32台のミニ・バスが止まっていた。
『バリー・リンドン』のアイルランドでの撮影がその日から始まった。

✻ある日エミリオはキューブリックに「3年間ロウソクを供給し続けられる会社を探してくれ」と頼まれた。『バリー・リンドン』の室内のシーンはすべてロウソクの光源だけで撮影するからだ。

✻エミリオをレースには行かせない。
キューブリックは事故を気にしてエミリオがレースに出る週末にもわざと仕事を入れてレースに出られないようにした。

✻夜討ち朝駆け。
朝であれ夜中であれ「エミリオはいるかい」とキューブリックから電話がかかるのでエミリオの妻はノイローゼになってしまった。
それを知ったキューブリック曰く「いいアイデアがある。君と僕との専用のホットラインを繋ぐことにしたよ」

✻妻の病気。
『バリー・リンドン』の撮影が始まって2年目エミリオの妻が病気になった。エミリオは妻と子どもたちの面倒を見なくてはならないことをキューブリックに告げると「いいアイデアがあるよ、一家で家に住み込めばいいじゃないか」。
以来エミリオの一家はキューブリック家の広大なお屋敷に住むことになった。

✻夢を捨てた日。
『バリー・リンドン』は1975年に公開されたが映画が公開されてもエミリオは仕事から開放されずレースにも出られなかった。
エミリオはFIレーサーになる夢を捨てた。

✻里親さがし。
1979年にロンドから30分の郊外にキューブリックは屋敷を購入したが屋敷内はすぐに巨大な動物園になってしまった。
キューブリックは広大な屋敷の敷地内に迷い込んでくる動物は何でも飼いすぐに獣医に行き、里親を探したからだ。

✻あの人だけは駄目です。
キューブリックに忠実なエミリオですが『シャイニング』の撮影時に「あの人の相手だけは勘弁して下さい」とキューブリックに頼み込んだ。
あの人とはジャック・ニコルソン。
キューブリックはジャック・ニコルソンの送り迎えはしなくていいよとエミリオに伝えた。

✻キューブリックさんの映画は観ません。
「キューブリックさんの映画は観たことがないんだ。だって長いからね」と言っていたエミリオ。
キューブリックから開放されて初めて作品を観て「彼が天才だと初めて分かりました」と語っている。

✻久しぶりの再開。
自分も年をとり母親の面倒もみなくてはならないのでイタリアに引っ込んだエミリオは1996年5月に懐かしのロンドン観光を兼ねてキューブリックに会いに行った。
キューブリックがその時準備していた作品は『アイズワイドシャット』。君が帰ってきたから始められるよとキューブリックはエミリオに告げた。
撮影は二年半続き、
あるシーンでエミリオはトム・クルーズと共演し、奥さんのジャネットも映画に出されてしまった。

✻エミリオが好きなキューブリック作品。
イタリアに戻っているあいだにエミリオはキューブリックの映画を観た。
ロンドンでキューブリックに再開したときに『ぼくの映画は観たか』と問われた。
「どの映画が良かった?」とキューブリックに尋ねられたエミリオは『スパルタカス』ですと答えた。
するとキューブリックは「あれは大した映画じゃないよ」と答えた。

✻受賞記録
2016年イタリア映画アカデミー主催のダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞・最優秀ドキュメンタリー賞受賞。

【5star rating】
☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:超お勧めです。
☆☆☆☆:お勧めです。
☆☆☆:楽しめます。
☆☆:駄目でした。
☆:途中下車しました。
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