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アルプススタンドのはしの方のmasatのレビュー・感想・評価

3.8
“送りバントをする”、そんな人間に支えられて社会は世界は回っている事に既に気づいている高校生たち・・・
だけども、一瞬でも、腹から声を出した時だけでもアップが欲しい、自分自身の人生の主役を感じたい!
クラスでも、ここ球場でも“ハシ”の方に居る4人の、そんな湧き上がる欲望が昂まる。観ている此方も昂奮し、自らを投影してしまう。
老若男女、若い者はそのふとした“可能性”(まだまだ)溢れる自分に気付き、老いたる者は過去を振り返らざるを得ない。
これから意外とイケんじゃ無いか?と若さは思い、
コレまでの人生、コレで良かったのか?まだ、送りバントが残されているのではないか?と、寝た子が起きたり・・・
そんなトコロまで連れ去られてしまう・・・

全ての世代が、夫々のステイタスが、あの球場でクロスする。
そんなマジカルな瞬間に誘われる最大の理由は、押し付けがましさが一切無い、このストイックで慎ましい“視線”の賜物である。

(無礼を承知で)城定秀夫に、これ程の“芸術性”があるとは思わなかった。
スタンド側を押して押して、盗んで盗んで見事なアングルと的確なカット割り(&音響効果)で、この他愛もないストーリーがこんなにも躍動し、あのハシが興奮の坩堝と化し、あの空間へと没入させる。陽の射し具合なんて如何でも良い!との乱暴も、見事に味方に付け、ショットショットがあまりに的確で美しく、しかもストイック。
映画芸術たる塊を投げつけられました。

溜めに溜め、コツコツと手腕を磨き上げてきた城定の、この一球に賭ける意気込みと冷静な計算高さが見事にかっ飛ばす。
しかも、過ぎ去ってみて初めて解る“青春”、その気付かなかった一瞬を、鮮やかに過ぎゆく閃光の様に見せる為、尺を75分にスパンと纏め上げたのも、手練れな手腕!
昨今の“抑え抑え”て、カット数が増え、大手を振って2時間をゆうに超え、凡長に成り果てる日本映画たちに、映画の手本を見せつけているかの様だ。

4人と楽団女子と一先生、まさに好演!
西本マリンの鬼気迫るかの様な表情。自分をコントロールしようと踠く、そんな思春期ど真ん中のキャラクターの気迫が異様なほど素晴らしい。
「イイ音、出してたぜ!」と叫ぶ内向的な眼鏡女子と常にセンターのスター女子が、端とセンターで叫び合う、まさに性を超えたシスターフッドなシーンが涙無くして見られなかった。

かくして、約70分足らずの鮮やかな試合観戦だった。
さらに、時が飛ぶ。4人のトボけた“マジカル”な瞬間も、スパンッ!とカットアウトされ、エピローグも鮮やかに走り去る。
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