七沖

映画ドラえもん のび太の新恐竜の七沖のネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

〝ハロー!新のび太。〟
このキャッチコピー、映画を観た後だとなかなか意味深だ。
それにしても、なんて夏らしさを感じるメインビジュアルだろう!この絵だけでノスタルジックな気分になってしまう。

のび太が偶然見つけた卵から生まれた恐竜の双子、キューとミュー。二匹は次第に大きくなり、のび太はドラえもんたちと白亜紀の仲間のもとに返しに行く。だが適応能力が高いミューと比べて、キューはなかなか馴染むことが出来ず…というストーリー。

誰もが『のび太の恐竜』と差別化できているかどうかを期待したと思う。
個人的には、これはアリだと思った。
『のび太の恐竜』で描かなかった恐竜絶滅という大事件がストーリーにガッツリ絡むため、終盤は大体エモい。
キューが飛ぶシーンは、かなり失敗を積み重ねて焦らすのでしっかり感動させられてしまった。

ジオラマセットが時を経て島になっているという設定も凝っていて良い。これはひみつ道具がバンバン出てくるドラえもんの世界観だからこそできたことだ。

敵かと思ったらそうじゃなかったというのも今っぽい。
となると敵らしきものはあの巨大なプテラノドンだが、いてもいなくてもストーリーが成り立つので印象に残らない。キューたち新恐竜の天敵としての説明が欲しかった。

とにかくラストにかけて感動シーンが多かったが、腑に落ちなかったこともある。
それは『のび太の恐竜』のピー助の存在だ。ピー助がのび太を認識していながら、のび太は恐竜を育てるのは今回が初めてのようなリアクションをとる。なんだかピー助だけがのび太を慕い続けているようで可哀想だった。
ファンサービスで登場させたのは分かる。50周年を迎える長寿コンテンツで、『のび太の恐竜』と本作を観る人では世代が違うのも分かる。
だが、ピー助がのび太を助けたことで、過去作と今作は地続きだということが示されてしまった。だとしたら、のび太のピー助を忘れてしまったかのようなリアクションは寂しすぎる…。
それなら、ピー助によく似たフタバスズキリュウがたまたまのび太を助ける形になった、という方が受け入れられる。むしろそうだと思って観ていたのだが、エンドロールでしっかりピー助(友情出演)って書いてある…!
『のび太の恐竜』のラストシーン後に、タイムパラドックスを恐れたタイムパトロールがMIB的な記憶消去をのび太たちにかけたのだということで、ひとまず自分を納得させている。
感動とはまったく別のところでこんなにもヤキモキと感情を揺さぶってくるなんてずるいぞ川村元気…!

そしてもう1つ気になった点が、恐竜が絶滅しなかったことだ。
ひっそり世界のどこかで生きていた、というオチは全然アリだと思って観ていたのだが、かなりオープンに助けている…!
これ、タイムパトロール的に大丈夫なのだろうか?歴史を変えてはならないということを言っていた気がするのだが…。このままだと、今の世界もジュラシックワールドみたいな感じになりはしないだろうか。
しかも、島の外にピー助がいるシーンまで描かれていて、これはちょっと残酷すぎないだろうか?川村元気は『のび太の恐竜』が嫌いなのか…。
キューたち新恐竜が進化して鳥になったことを考えると、つまり進化する必要性があったわけで、残念ながら生き残った他の恐竜もじきに滅んだと考えるのが妥当なのかもしれない。

色々書いたが、現代の解釈で描かれた新恐竜像や、少年少女たちが恐竜を助けるという展開はとても盛り上がる。
夏休みに観るにふさわしい、爽やかな後味を残す作品だった。


それにしても、のび太のキューへの接し方、のび太のお母さんそっくりだったなぁ…。
七沖

七沖