タマル

トランスミリタリーのタマルのレビュー・感想・評価

トランスミリタリー(2018年製作の映画)
4.0
まず大前提としてトランスジェンダー当事者は職探しが難航する。これは別にアメリカに限った話ではない。現代の日本においても、トランスジェンダー当事者がホームレスになってしまったり、水商売に進まなくてはならなかったりという問題が現実にある。
LGBTという概念はまさにこうした現実に抗うために作られていると言っても良い。実際、どこの国であっても、LGBTフレンドリーな雰囲気はそれに伴う金の動きと比例している。綺麗事を抜きにすれば、儲かるぶんにはいいだろうという資本主義において保証される類の自由と平等が与えられているのだ。そうした時に、セクシャルマイノリティの間には大きな経済的格差が浮き彫りになる。端的にいって、ゲイコミュニティの経済力が抜きん出てしまうのである。するとどうなるか。ゲイは認めるがビアンは認めないとか、広義のゲイは認めてもトランスは認めないという問題が生じてくる。最も問題なのはセクシャルマイノリティのうち、「普通」に取り入れられた側が率先して他のマイノリティを攻撃するという方向に走ってしまうことだ。だからこそ、全く異なるコミュニティを持つL、G、B、Tが同じロジックによって包括される必要があるわけだ。
本作で知らされる問題は、まさにこうしたジェンダー不平等によって生じる経済的貧富の差がその根底にある。トランスジェンダー当事者の
「安定した暮らしを送るための職は軍以外にはない」
という訴えは切実だ。
彼ら彼女らの権利を獲得するには能力主義を利用するより他にはないというのは資本主義の生んだ悲劇ではないか。トランスジェンダーであるならば、優秀でストイックでなければ生きられないとは。しかも、この映画のラストで知らされる事実は、そうした酷薄な「現実」すら塗り替えてしまうほどの「バックラッシュ」という最悪の愚行であった。

トランプがやっていることは「しょうもない」ことなんかではない。一つ一つがリカバリーに5年、10年かかるような破壊活動である。
呆れるのではなく、真剣に怒れるためにも本作は観ておくべき作品だと思う。
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