DJあおやま

劇場のDJあおやまのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.0
天真爛漫な女神のような女と、その優しさに甘えるだけの身勝手な男というステレオタイプなキャラクター像に、まるでファンタジーを観ているかのようだった。ただ、ずっと“沙希ちゃん”が怖かった。なんでも優しく受け止めてくれる人の顔が歪む瞬間が、いつ来るか怖かった。あんまりな主人公にどこまでも優しく接していて、もはや人間味を感じなかった。そういった無理を続ける人間の行く末にハッピーエンドは待っていないと、容易に想像できてしまうからこそ、物語が進んでいくことにも恐怖した。主人公・“永田”の抱える、表現者としての苦悩は、まるで高次のそれだと一般的にも描かれがちだけど、本当にそうだろうか。主人公が一体、表現者として何に苦悩していたかはずっとわからず。劇作という営みの表層的なところしか描かれず、主人公のキャラクターが薄っぺらに感じてしまった。なにより、モノローグを多用し、感情の機微すら説明してしまっているのが残念だった。もちろん原作が文学ゆえの演出かもしれないが、映画ならではの表現にもっとこだわってほしかった。
とはいえ、彼女の住む狭いボロアパートに転がりこみ、お金はないが夢がある、どんなときでも彼女が支えてくれる、そんなシチュエーションには確かに憧れてしまう。これはもはや御伽噺か、太宰か。
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