kkkのk太郎

Mank/マンクのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

Mank/マンク(2020年製作の映画)
3.1

このレビューはネタバレを含みます

脚本家ハーマン・J・マンキウィッツを主人公におき、1941年公開の映画『市民ケーン』の脚本がいかにして執筆されたかを描いた歴史映画。

監督は『セブン』『ゴーン・ガール』の、名匠デヴィッド・フィンチャー。

主人公ハーマン・J・マンキウィッツを演じるのは『レオン』『ハリー・ポッター』シリーズの、オスカー俳優ゲイリー・オールドマン。
「新聞王」ウィリアム・ランドルフ・ハーストの愛人で女優、マリオン・デイヴィスを演じるのは『マンマ・ミーア!』シリーズや『レ・ミゼラブル』の、名優アマンダ・サイフリッド。
マンキウィッツをサポートするタイピスト、リタ・アレクサンダーを演じるのは『しあわせの隠れ場所』『あと1センチの恋』のリリー・コリンズ。

第93回 アカデミー賞において、美術賞と撮影賞を受賞!✨
第46回 ロサンゼルス映画批評家協会賞において、美術賞を受賞!

………。うん、まぁ、そう…。よくわかんなかったです…。

デヴィッド・フィンチャーの作品はほぼ全て鑑賞しています。
彼の作品は一筋縄ではいかないものが多いですが、本作はその中でも一際厄介なシロモノなのではないでしょうか…。

脚本を手がけたジャック・フィンチャーはデヴィッド・フィンチャーの実の父親。
90年代には既に完成していたこの脚本だが、映画化の話はなかなかまとまらず、夢の実現を待たずしてジャック・フィンチャーは2003年に他界してしまう。
しかし、その思いを受け継いだデヴィッド・フィンチャーが亡き父の夢を30年越しに実現。まるで映画のような親子二代に渡る壮大な物語がこの映画の裏側には存在しているのです。

そんなフィンチャー渾身の一作!
…しかしこれは、もうなんというか、面白いのか面白くないのか、それすら判断がつかないくらいにようわからん。

お話のスジ自体はとっても単純。傲慢不遜な男が自らの過ちを知り、己の信念を貫くために強大な権力に立ち向かう。
「男なら負けると分かっていても戦わなくてはならない時がある」的な、みんなが好きな奴。

じゃあ何がわかりにくいのかというと、出てくる登場人物が何者なのかほとんど説明されない。
物語の中心である『市民ケーン』を鑑賞していることはもちろんのこと、その製作者であるマンキウィッツやオーソン・ウェルズ、そしてケーンのモデルとなった新聞王ハースト、彼の愛人マリオンについて、ある程度の知識がないと「今何やってますのん?」となることは必至。
1930年代における🇺🇸の政治や経済の状況についてもある程度は知っておかなくてはならないだろうし、とにかく観客にリテラシーが要求される。

それらのことについて多少は知っている観客でも、作中に詰め込まれている情報量が膨大なので一回観ただけでは「?」となってしまうだろう。私はそんな感じでした…😅
まぁこれは多分フィンチャーも織り込み済みで制作しているのだと思う。
本作はNetflixオリジナル作品。つまり映画館で鑑賞する作品とは違い、何度でも繰り返し鑑賞することが出来る。
つまり、複数回の鑑賞を前提として、あえてキャパオーバーとも言える過剰な情報を作品にぶち込んでいるんだろう。

という訳で、よくわからんところを再度チェックし直してみたりしながら、なんとか胃の腑に落ちるところまで作品を消化してみた。
…してみたんだけど、面白くない。というか、面白くしようとしていないんじゃないか、と思ってしまうほどに全体的に淡白な味付け。
時の大権力者ハーストに喧嘩を売る、という物語なんだから、それこそ『半沢直樹』くらい過剰に盛り上げることも出来ただろうに、温度感がとっても低い。すごく冷めている。

それに、マンクが喧嘩を売る相手がクライマックスで突然ハーストからオーソン・ウェルズに変わる。そのせいで物語の着地点がブレちゃったような気がする。
徹底的にハーストとの戦いを描く、もしくは前半からウェルズとの対立をしっかり描く、そのどちらでもなかったため、結局この物語は何を言いたかったのかよくわからん。

このフワフワかつ低温なストーリー。これは本作の構成が『市民ケーン』を下敷きにしているからなのだろう。
時間軸が行ったり来たりする構造は紛れもなく『市民ケーン』のオマージュ。それだけでなく、作品全体に流れる空気感や温度感、曖昧さもやっぱり『市民ケーン』を意識している。
そのため、あまりにも引用元からかけ離れた作劇は行えず、結果としてなんか曖昧で冷めた映画、言葉を選ばずに言えば気取っているけどつまらない映画になってしまったのではないだろうか?

とはいえ、この退屈さをただつまらないと切り捨てるのではなく、好意的に解釈する事もできる。
本作の最も強烈なメッセージ、それは「映画には観客にありもしないことを信じ込ませる力がある」という事。
もちろん、映画には観客に勇気や希望を与える正の側面がある。この側面を信じているからこそ、私は映画を見続けている訳だけれど、その反面、映画の魔力が悪い方向に人を誘う事もあるというのもまた事実。
日本でも『ジョーカー』に影響を受けた犯人による暴力事件がありましたね…。
フィンチャー作品だって例外ではなく、『ファイト・クラブ』に影響を受けた世界中の若者が実際にファイト・クラブを創設したという話もある。
映画の魔力の恐ろしさを、フィンチャーは誰よりも理解しているのです。

観客が制作者の意図しない受け取り方をすることもある。であれば、映画をプロパガンダとして利用する事の脅威は計り知れない。
その脅威に対抗しようとする男を描いた映画なのだから、必要以上に観客を煽るような描写は入れられない。観客を煽ってしまえば、それはハーストやMGMと同じ穴の狢ということになってしまいますからね。
従って、この映画の淡白さには必然性がある訳です。

とまぁ、ストーリーに関しては正直面白くないと思っているわけだけど、アカデミー賞を受賞した撮影や美術は確かに素晴らしい✨
30〜40年代頃を彷彿とさせるモノクロ映像。音響やBGMもそれっぽい雰囲気を携えているので、まるでタイムスリップしたかのような没入感を味わえる。
デジタル配信映画なのに、画面の隅っこにフィルム映画特有の切り替えパンチマークが表示されるという徹底ぶりはもはやギャグ🤣
これは「配信映画を映画とは認めん!」みたいな態度をとる、映画界の権威に対するおちょくりみたいなものなのかな〜、なんて思ったりもしました。

凄い映像!…とはいえ、やはり現代の観客にとってモノクロ映画というのはハードルが高い。
ストーリーもそうなんだけど、映像面もなんかフィンチャーの自己満足って感じがしちゃうんだよね…。
まぁ本作は大金を掛けて作ったフィンチャーの個人的な作品って感じだしこれでいい…のか?

ストーリーがよくわからん上にモノクロ映像という、完全にライト層置いてけぼりな映画。
フィンチャーファンの自分でも、これはちょっとかったるかった🌀
映画史に興味がある、という人以外にはオススメしにくい作品です…。
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