きゅうげん

ザ・ハントのきゅうげんのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・ハント(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

「ディープステートの陰謀論がホントだったら?」をアイデアに、政治や性差の対立をセンセーショナルに描いたブラックコメディ・デスゲーム。
結局のところ社会問題って、パーソナルな部分に関わってくるからこそ大事なんですよね。
ただ社会正義を気取りながら個人的な鬱憤を晴らすのは、迷惑千万。

鬼の首を取った極右陰謀論者たちvs私怨にかこつけるリベラル・エリート層……の茶番に付き合わされる"野ウサギ"主人公。
演技やセリフの端々に差別意識の潜在化・内面化が見受けられ、ジョージ・オーウェル的目配せも含意がありますが、いずれもテーマを深く語るほど前景化はされてません。これを建設的な抑制ととるか、消化不良に感じるかは人それぞれですが、根っこがギャグなので個人的にはこの温度感でいいかなと。
人違いでしたか(⁉)オチには「うまく逃げたな」と思いましたが。

ヒラリー・スワンクの嫌なCEO感はもちろんのこと、主演のベティ・ギルピンがスゴすぎる。
主人公と重ねられる"野ウサギ"とは、作中で語られる『ウサギとカメ』(18+)もさることながら、『動物農場』的には極端な政治思想の洗脳的浸透を拒否する、蚊帳の外な存在です。
軍人としてのプロ意識と隠し切れない動揺とが滲みでる、アンビバレントな何者でもない存在感が、そんな要素と密接に絡みあいつぶさに表れていて脱帽もの。
ちなみに、"アメリカの田舎者おじさん"キャラでよく見かけるドン役の方、かのロバート・デュヴァルの従弟だそうで……。

ピザゲート事件から議事堂襲撃までQアノン関連の騒動で、この映画のように陰謀論を一笑に伏せない時代になってしまいましたが、画面から離れて部屋を明るくして視線を送ることが、やっぱりとっても大事です。