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ザ・ハントの都部のレビュー・感想・評価

ザ・ハント(2020年製作の映画)
3.6
ドミノ倒しの如く死が連鎖する序盤のシークエンスは最高の一言で、物語における主要人物は死ねば死ぬほど良いという定説を信仰している私からすると、『誰がこの話主人公なのか?』という無慈悲な死による移り変わり激しく視点の定まらない展開は物語に引き込まれるに充分な物でした。また本作の主人公が明らかになるシークエンスのアクションの流麗さも目を引くものがあり、作品に掛けるアクションの期待度も序盤から高かったので期待値は高めでしたね。

その上がった期待値に対して作品の出来はといえば個人的には満足の範疇で、前評判で言われていたリベラルと反リベラルの社会的な分断を煽るような意図はそこまで感じられず、一貫した殺人スキルを備えた主人公が狩猟気分で低所得者を殺すハンター達を軽快に殺していくシークエンスの数々は殺伐としたアクションが引き起こす普遍的な高揚感を湧かせます。

引き金の軽い主人公というのは良い物で、90分程度の尺の中で澱みなく殺人を繰り返しながら物語をテンポよく進展させていくのはノンストレスで非常に良いと思います。序盤の怒涛の即死ラッシュのスピード感には劣るものの、矢継ぎ早に二転三転と状況が展開される為に映画としての面白味が継続的に提供されるので退屈とは無縁。ラストバトルを飾る泥臭いキャットファイトも逐一格好良くて、印象的なワンカットというよりは断続する無鉄砲なアクションの連続に耽溺を誘われます。

なのでサバイバルアクションとしては申し分ないのですが、作品が掲げる政治的な風刺という側面では良し悪しがあるのは事実です。
大衆向け映画であることを加味してもその描写は世間のリベラル象を単純化している過ぎず、反して反リベラルの人々の内面性は語られず所業紹介でその辺が済まされてしまうのは個人的に物足りなく感じましたね。

兎と亀の例え話をモチーフとして、物語の着地は権威を手に入れれば/あるいは失えば思想とは関係なくそう成ってしまうというのも寓話的ではありますが、それにしては本編に対してオチが弱い気がしないでもないです。言ってしまえばアレは勝ち逃げなので。
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